マスコミという名の狼少年 - 岡田克敏

2010年03月04日 14:28

「大山鳴動して鼠一匹」。今回の津波騒ぎはまさしくこの諺(ことわざ)の模範例と言えるでしょう。今後、諺を説明する適例として教科書にでも載せればよいと思います。


 マスコミ各社は津波の襲来に備えて最大級の報道を行いました。中でもNHKは朝から晩まで、通常の番組を中止し、ほとんどすべての時間を津波報道に割いて、危機を訴えました。津波による被害をなんとか防ごうという姿勢は「感動的」ですらあります。

 ところがマスコミの懸命な努力にもかかわらず、避難に応じたのは驚くほどの少数です。3月1日の読売新聞 よみうり寸評は次のように書いています。

 『今回のチリ大地震できのう、大津波警報が発令された青森、岩手、宮城3県の36市町村のうち、2町村が避難勧告、34市町村が避難指示を出している。この3県34万人で、避難が確認されたのは6.2%、2万1000人』

 避難した実数は6.2%より少しは多いかもしれませんが、驚異的な数値であることには変わりません。要するにマスコミや市町村、それに気象庁が信用されていないということです。信用度の低さがこれほど明瞭な形で示されるのは珍しいことであり、それだけに実に貴重なデータであると思います。関係者は深刻に受け止めるべきだと思いますが、何故かメディアではほとんど問題にされていません。

 いかに大きな声で叫んでみても信用がなければ意味がありません。信用が大切なのは人も組織も同じで、言動に信用がないということは嘘や誇張が何度も繰り返されたことの反映と考えられます。

 気象庁の波高の予測値が過大であったことについては、予測値を過小に見積もって被害が出るよりは良い、という論調がメディアには目立ちました。これは報道についても過小よりは過大の方が良いのだ、というメディアの弁解の下準備のように聞こえます。

 私の記憶によるとNHKは阪神大震災を境に地震報道のあり方が大きく変わったように思います。震度が1や2、マグニチュード3程度の微弱な地震でも報道するようになりました。ラジオの番組を中断してまで微弱な地震を報道する意味を理解することができません。

 今回、避難指示や勧告に従わなかった90%超の人々は自分の判断で行動したのであり、いっそう自身の判断の正しさに自信を深めたことでしょう。この「学習効果」は将来被害をもたらすような大きな津波が到来したとき、深刻な問題になる可能性があります。3mの波高予想で避難が6.2%なら、6mの予想では50%にまで達するでしょうか。今まで10cmや20cmの津波で大騒ぎを繰り返してきた結果、信用はすでに失われていたと考えるべきです。

 この背景には過剰であっても安全策をとっておけば責任を問われることはない、という保身の動機があると思います。気象庁、市町村、そしてマスコミが責任を回避する行動をとり続けた結果、過大に反応が常態化し、避難者が6.2%という低信用度を「達成」したと考えられます。

 この責任回避行動の裏には「安全」を最優先する風潮があります。安全を振りかざして企業や医療を叩いてきたマスコミ自身が安全軽視と言われないために、安全優先に縛られ、危険を誇張した津波報道を続けた結果としての信用失墜であり、自縄自縛、いや自業自得と言えるでしょう。

 まあ理由はどうあれ、このような場合、テレビは迅速な報道機関としての役割をほぼ独占しているわけで、信用がなくなれば報道の役割が果たせなくなります。放置してよい問題ではありません。

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