日本の食料自給率と他国の農業政策

アゴラ編集部

齊藤豊(大妻女子大学人間関係学部社会学専攻准教授 2010年4月1日就任予定)

日本政府が農業に手厚い保護を行い、食料自給率の向上もその施策の一つとなっているのは事実であるが、はたして、この政策は間違っているのだろうか。この問題を考えるときに日本政府が人口の3%の農業従事者に使っているお金の絶対額、あるいは他の産業従事者との相対的な金額のみを見ていては問題の本質を見誤ってしまう。


アメリカなど日本以外の先進国の農業政策は日本と異なっているのであろうか、という国際比較が重要である。OECD諸国のうち、2003年に農産物の輸入超過となっている国には、日本以外にアイスランド、ノルウェイ、スイス、韓国などがある。これらの国の農業保護率と農産物輸出入の相関(※1)を見ると農産物輸入が一番多いアイスランドでは、一人当たり輸出超過額が約8万円で、農業保護率は約70%となっている。2位のスイス、3位のノルウェイもほぼ同じ水準である。

日本の一人当たり輸出超過額は4位で、一人当たり輸出超過額が約4万円で、農業保護率は約58%となっている。(5位は韓国で日本より一人当たり輸入額が少ないが農業保護率は日本より高くなっている)農産物輸出国では、アメリカ、カナダ、ハンガリー等が農業保護率約18-28%で、オーストラリア、ニュージーランドが同約3-5%となっている。

これらの国際比較をみると食糧輸入国としての日本の農業保護率は決して高くなく、妥当だということができる。一国における農業保護は、国際比較だけで決められるものではなく、産業従事者の平均賃金や政治的な意図があり、それらの検討も必要である。また、米を神格化といえるほど重要視しているという農政の偏りもあるとは思う。しかし、これらの各項目を検討しても、日本の農業保護政策の大半は間違っていないといえるのではないか、と筆者は考える。よって、政策の偏りの修正などは必要だが、食料自給率の向上施策も是である。

※1:http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/0308.htmlを2010/3/28に参照

コメント

  1. disequilibrium より:

    輸入超過額と農業保護率の比率が、他の食料輸入国と同じような数値であるというのは分かります。
    しかし、それは現状について、一つの見方として問題がないと言えるだけであって、食料自給率の向上施策の是非とは繋がらないと思うのですが。

    国際比較の上での妥当性を維持するためには、食料自給率を上げるのと同時に、農業保護率を下げなければなりません。そのためには政府の介入なしで農業の競争力向上が必要になりますが、それは農業保護政策とは逆ではないかと思います。

  2. jnuxcom より:

    日本農業だけに頼ることが最も危険な政策 

    エネルギー資源の96%を輸入に頼っている日本で、食糧自給率などは殆ど意味が無い。

    日本で食糧を自給するより、国際競争力の無い食糧(米・小麦など)は輸入し国際価格で国内流通させる方が日本の安全と製品競争力に有利になる。 日本が食糧輸入の方針に変更すると、米などは商社による海外での日本品質大規模農業が実施され、これは日本100%自給より遥かに、天候リスク・価格変動リスク・品不足リスクは少ない。 分散購入・備蓄が最大の安全策で、日本の農家だけが作っている食料に頼ることは最もリスクが高い。 消費者は食料費が半分以下になるので、貧困層を含め生活が楽になる。 農業補助金がほとんど要らなくなり、納税者は楽になる。(ただし、農林水産省職員の仕事が無くなり、農家が困るので実施されることは無い?) 

    『1993年米騒動』で分かったことは、米が不足すると農家・卸業者・小売業者は米を売らずに値上がりを待つ。 タイ、中国、アメリカから緊急輸入が発表されて、値上がりが無いことが分かって米が市場に出てくる。 これは彼らが特別悪質なわけではなくて、当然の行動である。 結局、米不足を救ったのはタイ輸入米だった。

    食料自給率100%は日本を滅ぼす・・・?

  3. tom574 より:

    どの先進国でも「食べ物は何より大切である」という感情論から政治的配慮がなされ農業保護が行われていますが、これによって世界の経済効率が妨げられていることは明かです。
    先進諸国は農業保護を止めて、途上国にも発展の機会を与えるべきだと思います。