農業政策への提言 ― 高取宗茂

2010年04月01日 10:10

我々は、国家の食料安全保障を実現する手段は
「食料生産力」と「国際的な資源・食料調達力」の両輪ですべきであると考えています。

農作物の生産効率の向上には一定の意味があり、結果として食料自給率が上がる事は問題ないと主張します。


まず、「自給率」と「食料生産力」とは全く別物で、自給率向上について学べば学ぶほど指標としての正確さが無いことが分かり、この議論を一番難しくしていると思っています。食糧自給率の問題と「自給」それ自体の是非を切り離す論法も、この議題の根幹に関わる問題ですので、何を基準として話し合うか、という点については明確にすべきだと思います。

現行のカロリーベースの計算方法では国産の牛・豚・鶏については自給率の計算にほとんど算入されていません。エサが輸入穀物であることで国産の畜産物ではないという暴論は、リン鉱石などの農薬肥料の輸入を行っている我が国では、農作物に関しても本来ならば自給率の計算に入れてはならないということになってしまい、農水省の恣意的な計算方法であるといった反論は当然の事だと考えています。
 
また、畜産物に関してはカロリーが非常に高い食材であるため、そのカロリーが計算に入れられなければ、野菜穀物類だけのカロリーでは40%という低水準になることも理解できます。

例に挙げると、現在の食糧自給率の論拠に基づいて日本国内で生産している畜産物の総カロリーを食糧自給率に算入しようとすれば、輸入している飼料用とうもろこしを日本国内で全て生産しなければいけません。
 
その量はおよそ年間1200万トンで、アメリカ全土で生産されている総量のおよそ5%。その量のとうもろこしを国内で生産するとなれば、日本で2番目に大きい岩手県を全て更地にして耕作可能地にしなければならないという事になります。現在は総使用量の98%が輸入であり、日本で消費しているトウモロコシの2%は国内の畑で生産しているわけですが、そのトウモロコシの種はパテントを持つアメリカの穀物メジャーから買っているものです。種子が輸入ならば、現在の自給率の論拠でいくと国内で生産されているトウモロコシは0%となってしまいます。

安い穀物飼料を輸入する事により国内の畜産物の価格は安定していたものを、自給率向上を目標にすると、その原材料を全て国産でまかなうことで、あり得ない金額にまで末端価格が跳ね上がることになってしまいます。
 また、日本の商社が世界中で開発・提携している耕作面積は日本の耕作可能面積の5倍とも言われ、日本の商社が海外の農業法人と提携して生産している農作物も、これが果たして解釈次第では国産ではないのかという疑念も沸きます。

列挙すればいくつも欠陥があるカロリーベースの自給率の計算方法を基軸にした議論をいつまでも行う事よりも、まず国家として行わなければならない最優先事項は、きちんとした自給率の計算方法を開発するか、国内での食料生産にとって、飼料・肥料・燃料が輸入を前提に行われている以上、自給率というカテゴリではなく国内生産力など何らかの議論の指標の策定を行う必要があると、我々は強く提言します。
 
そうしない限り、国内の農業についてきちんとした議論が行えません。

ですが、こうした自給率指標の修正や別の方法による指標の策定を前提に、大きな予算をかけてまでこの自給率向上を行う必要があるのかというメインテーマに入ると、我々も「ある」と考えています。

その大きな理由は、日本の農業技術は世界的にも屈指のレベルであり、中国を始めとして世界中でその技術の継承が行われています。モラルがない中国の農家により劇薬を大量に使用した中国野菜を輸入していた側面もありましたが、日本の商社により正しい農業技術で生産されている農作物もまた、日本の技術力の賜であります。
 
農協が推奨する生産方法のみを行い創意工夫のない日本の農家もいますが、こだわった土壌改良技術を基軸に良質な農作物を生産している生産者もまた日本国内で相当数に上ります。
 
長い歴史において連綿と受け継がれ、時代と共に開発されてきた巧みな農業技術により生産された安心・安全な食料を食べる事が出来るということ。高品質の農作物を生産出来るノウハウを有していることは我々日本人にとって最大のメリットであり、それこそが技術立国としての日本のスタンスであると我々は考えています。
 
また、農業がボランティアではなく、あくまでもビジネスである以上、日本国内で生産された高品質の農作物が需要に合わせて流通することは歓迎されるべきであり、その前提として燃料や飼料・肥料を輸入していたとしても国内で生産される高品質の食料が日本人の健全な食生活の一翼を担えるのならば大いに推奨するべきです。

そのクオリティの高い農業の手法を妨げているものは、農協を中心とした農作物の物流システムとそれを支える230万戸とも言われる農家の数です。農地を代々受け継ぎ所有するだけで耕作もせず、第三者に生産を委託している膨大な兼業農家の数は本来ならば淘汰されるべきであり、抜本的な農地政策の改革を行わなければ、国民は税金が投入された保護政策の産物である食糧を、高いコストを支払って食べなければならないという悪循環のままとなります。

現状では非効率極まりない日本国内での農業が高コストであることは当然で、高コストであるから商品も高いわけです。日本は莫大な税金を投入し、農家を辞めさせない為の所得保障政策・農家保護政策を行い、高価格帯での物価安定を図ることに政策の基本方針を置くことから脱却する方向にシフトを移すべきだと我々は考えています。

まず必要な事は高品質な農作物の生産技術を有する農家による大規模生産方式を採らせることです。耕作可能な土地を出来るだけ集約する事により、効率的な生産体制を確立し、適正な食料の物価を図ることが重要です。要は農業をきちんとした競争力のある産業に成長させる必要性を強く感じています。
 
比較的安価な生産コストに対してしっかりと利益を出せる産業構造になれば、雇用も生まれ、民間企業も自ずと算入します。高品質な食料の生産技術を持つ農家が競争原理によりしっかりと伸びていく環境と、民間の農業法人が長期的に安定した生産を行える環境を整えれば、自然と日本国内での生産力は向上するものと考えます。

農業をきちんと独立した産業として成長させる事。成長戦略を重要視することで農業の活性化は十分見込めます。価格帯が輸入食料に近い生産コストになれば、日本の農作物が国際的な競争力を持つ事も十分考えられる事で、高い技術力と豊富な土壌による高品質の農作物であれば、市場原理により必然的に付加価値が付く事も十分考えられる。

こういう議論が出ると、中山間地にある農業が非効率的となり、耕作面積は減少するのではないかとの意見も出ますが、そもそも産業として成り立たないようなものであるなら淘汰されることは当然だと思いますし、山間地の農家は、生き残りを掛けて、高品質な農作物の開発に力を入れるか、畜産業にシフトするなどの対策を自発的に行うべきであり、日本政府も減反政策の変わりに畜産業への転換を推奨することも視野に入れる必要があります。

我々は、食糧自給率という数値目標を政府主導で掲げても世界中で流通している食材の流れは農業がビジネスである以上必ず起こる事で、日本国内の膨大な農業従事者若しくは兼業農家に対する過剰な保護政策と無駄な税金を垂れ流す価格政策は逆に国民を苦しめるだけのものだと考えています。
 
自給率向上の為の政策投資ではなく、流通性の高い低コスト高品質の商品を生み出すための税金投入を行い、農地法などの抜本的整備を行い、農業の規模の拡大、企業による参入の機会を増やすことによって、結果として自給率向上(どのような計算方法であったとしても)となると考えています。

現在の農業政策を基本とした流れの中でも、輸入品か国産品かのどちらを選ぶかは確かに消費者の自由であるという側面はあるものの、自由な選択肢としては成立していません。「自給率を政策的に上げなくても、選択したい人だけ選べば良い」という意見が偽善的なのではなく、そもそも産業として競争力を持たない、まるでボランティアのようなスタンスに農業を置いていること自体が問題なのです。 
 
全ての産業は市場原理で動いているのであり、輸入品を抑制する動きは関税を掛ければ済む事です。

また、アメリカやEUが大量の補助金を投入していることを考えれば、海外からの農作物の輸入は日本として積極的に行うべきであり、日本人が食べる農作物に海外が支援していることは日本にとってメリットであると考えることが普通です。
 
ただでさえ資源や国土面積に乏しい日本で、産業としての効率的な農業の発展を目指すことなく、過剰なほどの保護政策を行う事そのものがナンセンスなのです。
 
国家戦略としてやらなければならないことは、安全保障上の食料対策に関しても、現在のような食糧自給率向上政策を推進するコストより、緊急時に備蓄する方がよほどコスト安です。税金の使い道をどう考えても間違っているとしか思えません。外交による食料調達力を増強し、国内での食料生産能力や調達力が何らかの理由で減少したときにきちんとリスクをヘッジすること。内外価格差の是正の為に計画的に関税を掛けるなどの措置を行うこと。また、国内農業の産業としての発展のため農業技術の開発や設備投資に助成するような仕組みを行うこと。海外との国際競争力を付けさせるために、販路拡大などの機会を作る事などが考えられます。

現在、世界中で煽られている食糧危機の問題に関しても、大豆やトウモロコシの先物取引による価格高騰が原因であり、世界中で生産されている食料で現在の人口は十分まかなえるという試算もあります。あくまでも食糧不足による飢餓の問題は、地球上で生産されている食料の絶対数が少ないということではなく、経済格差による貧困が原因であります。

まとめとして、食糧自給率という現在の計算方法を基軸とした向上論はナンセンスであり、しっかりとした議論の指標を決める必要があるということ。
 世界中で行われている農業は、あくまでもビジネスであるということを前提に考えること。
 
また、日本の農業政策において、自給率向上論と生産力向上論を同一視せず、産業として農業が国際競争力を持てるレベルにまで活性化・効率化・低価格化を促すために、農地並びに農家所得保障政策の抜本改正を行うこと。
 
国内生産力向上を目標にした政策に移行し、資源・国土が不足している日本において飼料・肥料資源の確保を、輸入を通じてきちんと行い、政府は農業の振興に伴う設備投資などに対する支援政策を行い、外交において考え得る食糧リスクついてヘッジすること。

我々は以上を考えます。

株式会社和僑 代表取締役 高取宗茂
ホームページ http://wakyo-japan.com/

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