え? これが政治主導? - 松本徹三

2010年04月05日 10:53

また少し驚くことがありました。私は、先週の月曜日に「携帯電話におけるSIMロック論争」と題して長文の投稿をしましたが、一昨日の土曜日の朝刊では、各紙が一斉に、この問題に関連して「総務省がある方針を決定しようとしている」ことを報道しています。

この問題について、総務省は、4月2日(金)の午後6時から7時半までの1時間半、内藤副大臣主催で、携帯通信事業者4社に、MVNO業者の日本通信、端末機メーカー等の団体であるCIAJ、東京都地域婦人団体連盟を加えた合計5社2団体の代表を招き、ヒアリングを行いました。その場には報道関係者も招かれていて、後で副大臣からコメントを取っていたようです。


私はソフトバンクの副社長としてこのヒアリングに出席、先週月曜日のコラムに長々と書いたようなことを、8分間に圧縮して話しました。

この件について総務省が考えているらしい方針は、あまりに多くの「誤解」と「見落とし」がベースになっているようなので、これを正した上で、「SIMロック端末の禁止措置を強行したら、どのような問題が起こるか」を説明するのには、本当は相当の時間がほしかったのですが、「各社の意見開陳は最長8分間だけ」という制限が課せられていたので、何とかその中に収めざるを得ませんでした。

その後は副大臣からの質問に答える形で2回発言の機会があっただけで、他の発言者に対する質問や、議論の時間はありませんでした。急遽総務省から呼ばれたらしいMVNO事業者の日本通信の代表者が、「SIMロックを外すと端末機の価格が安くなる」という世界の常識に反することを言われ、副大臣がそれに大きく頷いておられたので、さすがに仰天して、その根拠を質問したかったのですが、それも不可能でした。

しかし、副大臣からの最後の質問に対しては、私は、「『SIMロックを解除した端末がもっとあった方がよいから、通信事業者もそれに協力せよ』ということなら賛成だし、勿論協力するが、『SIMロックをかけた端末はあってはならない(禁止する)』ということなら、市場の現実を根底から破壊して、大混乱を招く恐れがあるので、絶対反対」と、明確に答えました。現実に、このままでは、本当に大変な事態を起こしかねない可能性もあるので、「最低限それだけは明確にしておかなければならない」と考えたからです。

ドコモとKDDIの代表者の発言も、表現こそ間接的で、語尾が曖昧でしたが、「SIMロック解除を強制した場合の問題点」の指摘については、ソフトバンクの指摘とほぼ同じであり、結論としては、「SIMロックの有無は、ユーザーが自由に選択できるようにするべきであって、どちらか一つのタイプに決め付けてしまうべきではない」ということは、はっきり言っていたと思います。つまり、「解除を強制することには反対」という立場は明確であったと思うのです。

イーモバイルと前述の日本通信は、総務省の考えに「賛成」(何故かイーモバイルは周波数問題を同時に陳情)。CIAJは、端末ベンダーの立場から、相当はっきりと「解除」の問題点を指摘し、実質的に「反対」の立場を表明。婦人団体連盟は、「賛成」とした上で、幾つかの問題点を指摘していました。

要するに、このヒアリングの総括としては、「賛否に意見は割れたが、少なくとも主要通信事業者3社と端末機メーカーの代表者は、多くの問題点を指摘して、懸念を表明した」ということになるだろうと、私は思っていました。

にもかかわらず、翌日の朝刊の各紙の報道はどうだったしょうか? 全体のニュアンスとして、「これで通信事業者からも一定の合意が得られたので、年内にも『制限を解除』する」ということになっています。日経新聞は、「内藤副大臣は、『利用者の要望を前提に(携帯各社が)SIMロックの解除に応じることで、一定の合意を得た』と判断した」と報じていますが、他紙の多くは「携帯4社が同意した」というニュアンスで報じています。

日経新聞の報道は、「曖昧な表現をせざるを得なかった副大臣の苦しそうな表情」が見て取れるような臨場感もありますし、正確でもあります。また、私がはっきりと反対を表明したことも付け加えて頂いているので、報道としては問題ないと思います。しかし、「携帯各社が同意」という他紙の報道においては、明らかに事実が歪曲されていると言わざるを得ません。

日経新聞が、「ソフトバンクは反発」という小見出しまで付けてくれたことには感謝しますが、この書き方だと、「ソフトバンクだけが他社と立場を異にしている」とか、「他社は総務省の方針に協力しようとしているのに、ソフトバンクだけが駄々をこねている」という風に受け取る人も多いでしょう。解説記事を含めて、全体の論調が「総務省がやろうとしていることはユーザーにとってよいことだ」というニュアンスになっているので、この様な書き方だと、ソフトバンク1社だけが悪者に見えてしまいかねませんから、私としては、あまり嬉しいことではありませんでした。

総務省がやろうとしていることは、本当にユーザーにとってよいことなのでしょうか? 勿論、私はそうは思っていません。「一部のユーザーにとってはよい面もあるが、全体的にはユーザーにとってデメリットの方がはるかに多い」と思っていることは、先回のブログでも縷々申し上げた通りであり、今回のヒアリングでも、あらためて項目別に説明しました。

「制限を解除」というと、いかにも「『制限』という悪を懲らしめ、ユーザーの選択肢を広げる」という美しいことのように聞えますが、実際には「『制限はつくが安く買える端末』の存在を許さず、『高くつくが制限はない』という特殊端末だけにする(つまり、ユーザーの選択肢は狭まる)」ということなのです。こんなことを多くのユーザーが求めているとはとても思えません。それ故、「新聞は、何故、『制限を解除』という言葉の意味を、そのように正確に報道してくれないのか?」という不満は、当然私の中に残っています。

私が指摘したような問題点の多くは、ソフトバンクだけでなく、ドコモもKDDIも全く同じように指摘し、決して「全面的な制限解除」には賛成していませんでした。「ユーザーが希望するなら、制限ナシの端末もサポートする」という点でも、ソフトバンクを含めた3社の発言に全く相違点はなかったと思います。ただ、言い方が私のように明快でなかっただけのことなのですが、この日経新聞の記事を読んだ人は、そのようには受け取らないと思います。

このことについては、同業者であるドコモやKDDIのやり方にも、私は大きな不満を持っています。両社は、何故、考えていることをもっと率直且つ明快に言わなかったのでしょうか? 恐らく両社とも、「お上」である総務省の立場を慮って、わざと言葉を濁したのでしょうが、こういう曖昧な日本語こそが、「問題点をぼやかし、玉虫色のルールを作った上で、公然とこれを無視する」という、日本のかねてからの悪習の元凶となっているのです。

ドコモは、「法令による強制は困るが、ガイドラインならよい」ということで、総務省と既に握っているという風評もあり、こういうやり方を「大人のやり方」と言うのでしょうが、これは決して健全なことではありません。総務省も事業者も、国の為、国民の為に、もっと真剣に且つオープンに、色々な事を是々非々で議論し、認識に誤りがあれば、その都度正していくべきです。

ヒアリングの冒頭で内藤副大臣からも説明があったように、このSIMロック問題は、数年前にも一度議論されたのですが、現状ではKDDIだけが異なったシステムを使っているので、「全事業者が同じシステムを使うようになるまでは、議論しても無駄」ということになり、凍結されていました。しかし、その後、KDDIは、次世代システムとしてドコモやソフトバンクが使う予定のLTEと呼ばれるシステムを使うことを表明、一方、ドコモは、来年にもこのLTEシステムを試験的に使い始めることになったので、「そろそろ凍結を解除する時期が来た」と、総務省は判断したのかもしれません。

しかし、よく考えてみるとその時期は本当に来たのでしょうか? 前回からの議論を引き継ぐのですから、総務省が「SIMロック解除を要請」するのは、当然「LTE端末」のみということになるのでしょうが、ここ数年の間でLTE対応のインフラをもち、LTE端末を販売するのはドコモだけですから、仮にこれらの端末をSIMロックフリーにしたところで、誰も別のSIMカードを供給することは出来ず、従って、ドコモとしては痛くも痒くもないのです。

それでは、KDDIやソフトバンクがLTE設備を本格的に展開できるのは何時頃なのでしょうか? これに必要な周波数がどのように割り当てられるのかにもよりましょうが、恐らく2013年頃にはなるのではないでしょうか? また、そうなっても、いきなり全国をカバーするわけにはいかないでしょうから、新しい端末は、KDDIの場合はEVDOとのデュアルモード機となり、ソフトバンクやドコモの場合はHSPAとのデュアルモード機となるでしょう。LTE分も含め、「使用される周波数の違い」も、当然引きずることになります。

こうなると、「一つの端末が全ての事業者のネットワークと問題なくつながる」、つまり、「全ての事業者のSIMカードで問題なく動く」という時期が来るのは、まだ更に先のことになります。そんな先の話を、何故今年の末までに決め、実行を要請する必要があるのでしょうか? 考えれば考えるほどよく分からない話です。

今回の話の進め方にも大きな疑問が残ります。私は、「この件についての初めてのヒアリングがある」というので、これが「これからの議論の始まり」だと思っていたのですが、会議の終りの副大臣の「総括」の仕方や、翌日の新聞記事を見る限りでは、「議論の始まり」どころか、ここで全ての基本方針が決まってしまったかのような印象を与えます。つまり、既に結論はあらかじめ決められており、ただ形式を整えるだけの為に、直前にヒアリングを行ったとしか思えないのです。これでは、このヒアリングは「とんだ茶番劇」だったということになってしまいます。

この件を本当に実行に移すとすれば、そこで中核的な役割を果たすべきはやはり各携帯事業者ですから、先ずはこれらの事業者の意見を十分聞き、色々なプランのプロとコンを仔細に評価した上で、十分な議論を尽くしてから基本方針が決定されるのが筋ではないでしょうか? それなのに、「事業者の意見具申は1社当たり8分程度」、「本格的な双方向の質疑応答もディベートもなし」、そして、「結論はその僅か数十分後に出ている」というのは、一体どういうことなのでしょうか?

我々は、民主党政権になったのだから、「これまでの官僚主導のやり方が否定され、全てがもっとオープンで民主的なやり方で決められることになるのだろう」と期待していました。しかし、今回のことを見る限りでは、まだ以前の方がよかった位だという思いが拭えません。もし、この様なやり方が、民主党の提唱する「政治主導」のやり方なのだとすれば、前途に希望が持てなくなってしまうでしょう。

何故、今回、総務省はこんなにも拙速に事を運ぼうとしているのか? これは大きな謎です。一部には、「ドコモに何らかの秘められた戦略があり、総務省は実はドコモの為に動いたのではないか?」という疑惑も広まっているようですが、私はその説は取りません。「間違えれば政治問題にまでなりかねない」リスクまであるのに、誰かにとって「その見返りになるような大きなメリット」がこの件に関連してあるとは、どうしても思えないからです。

恐らくは、総務省、或いは、現在そこで指導的な立場にある人達が、「何か大きなことをやった」という「実績」を作りたかったのではないかというのが、現時点で私に想像できる唯一のことです。しかし、もしそうであるとすれば、このことが実現した時に甚大な被害を受ける可能性のある人達にとっては、何とも理不尽なことだと言わざるを得ません。 

最後に、私は、今回のことに関連して、報道機関に対しても一言言いたいと思います。

私は、ヒアリングが終わってから朝刊の締め切り迄に僅かな時間しかなかったに関わらず、多くの紙面スペースをとって、色々な解説まで加えて報道した「各紙のあまりの手回しのよさ」に、これは「記者クラブの縁で結ばれた総務省と新聞各社との間の『出来試合』だったのではないか」と疑い、そのことをTwitterで呟きました。

しかし、これに対しては、某紙から、「絶対にそんなことは無い。それはあなたの想像の産物に過ぎない」という抗議を受けました。それは確かにそうかもしれません。「確証のないことについて、想像をベースにTweetしたのは正しくなかったかも知れぬ」と、私は反省もしました。従って、このことは取り下げます。

しかし、各紙の勉強不足には、やはり苦言を呈しないわけには参りません。各紙が以前から総務省を取材してきたことは、先ず間違いないでしょうが、そこで語られた事を、もしそのまま鵜呑みにされたのだとしたら、あまりに淋しいことです。

携帯通信事業や関連機器は、今や各国の一大産業となっていますが、「現在の日本のビジネスモデルの本質」についての理解と、「急速に変化している海外事情」の把握は、各社とも、現状では総じて不十分と言わざるを得ません。

「何故日本の携帯端末が世界市場で売れていないのか」についての分析も、十分になされていたとはとても思えません。(もし真剣な分析がなされていたら、少なくとも「SIMロックは何の関係も無い」こと程度は、すぐにご理解頂けていたでしょう。)毎日の仕事を通してこのあたりのことを十分に掌握している我々通信事業者を、直接取材して頂けなかったことも残念です。

こんな生意気なことを言うと、各新聞社から憎まれることになり、どこかで報復されかねないリスクがあることは重々承知しておりますが、「政や官の暴走を止める為に、『第四権』である報道機関の皆様の奮起が如何に大切か」ということをいつも考えている私としては、細かいことではありますが、やはり一言言わざるを得ませんでした。

前回に続き、またまた大変な長文になってしまいましたが、Twitterで私をフォローして頂いている6300人超の方々に対しても、一度詳細をまとめてご報告する必要を感じましたので、今回もアゴラの場を借りてそれをやらせて頂きました。悪しからずご了承ください。

なお、前回のアゴラの記事や、毎日の私のTweetに対して頂いているコメントには、全てにお答えは出来ていません。特に技術的な問題については、話せば長くなるので、来週のコラムでまとめてお答えしたいと思っています。

先回も申しましたように、携帯ビジネスには、「端末」「通信ネットワーク」「付加サービス・コンテンツ」それに「流通・マーケティング」を併せた「四つの要素」が組み合わさっています。「この四つのそれぞれは、世界の各地域で、現在どんなプレーヤーが仕切っているか」「この四つをintegrateするリーダーは誰か」「この四つを、結びつけたり、切り離したり、統一したり、差別化したりする仕組み(技術)には、どのようなものがあるか」等々は、結構奥の深い話になりますので、どうか次回のコラムをじっくりとお読みください。JILやWACについての情報も、その際に提供します。

資料:携帯電話端末のSIMロックの在り方に関する当社の考え 平成22年4月2日 ソフトバンクモバイル株式会社(PDF)

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