日本へリピート観光する外国人は確実に増えている

前田 陽次郎

今回は見事にアゴラのタイトルに釣られてしまった。岡本裕明氏の『外国人が日本へ「リピート観光」しない理由』という記事である。

そもそも日本へのリピーターは確実に増えているし、この記事で書かれていることは、リピーターが増えない理由として挙げるにしても些細なことだ。何というつまらない記事かと思い、氏の元ブログを見ると、タイトルが『訪日外国人の利便性向上に成田羽田直結が決め手だろうか?』になっていた。それなら納得。


それはさておき、そもそも岡本氏と私とでは、外国人旅行者のイメージが全く異なっていることが、意見が違ってくる原因になっている。九州在住の私の視点だと、日本を訪れる外国人旅行者といえば台湾・香港からのリピーターであり(韓国は一時期減っていたが、最近戻ってきた印象を受ける)、カナダ在住の岡本氏のイメージだと、欧米人旅行者なのであろう。

岡本氏がフランスの例を挙げているので、フランスと比較してみる。フランスを訪れる外国人で、数として多いのは近隣諸国からである。当然のことだが。となると、日本もフランスに負けない外国人を呼び込もうとすると、数を稼ぐなら近隣諸国を中心に考える、というのが自然な発想である。

では、何故フランスを訪れる外国人が多いのか。主要な理由は、
・近隣諸国との距離が近い
・近隣諸国の経済力がフランスと変わらない
・近隣諸国からビザ無しで訪問できる
・近隣諸国には長い休暇を取ってバカンスに出かける習慣がある
というものだ。

これを日本にあてはめて考えるとどうなるか。

韓国や中国は、近い。台湾も、近い。そこから先は、ちょっと遠い。近いといっても陸続きの国がいくつもあるフランスよりは遠い。とりあえず、フランスに比べて地の利が悪いことは否定できない。

経済力でいえば、イタリアやスペインはフランスより経済力が劣る、と言われても、日本とフィリピンやベトナムとの差を考えれば、遥かに小さい。しかし、中国であれば人口が多いので、富裕層だけに絞っても、かなりの潜在力はあると考えていいだろう。やり方によっては、この点は克服できる。

ビザについても、経済力が揃わないとビザ無しにするのは難しい。しかし、タイやマレーシアもビザ免除にして、訪日客が一気に増えているので、この方向ではもう少し広げられる可能性はある。

最後のバカンスについては、かなり長い目で見ないといけないだろう。

と大雑把に考えてみた。岡本氏は『当面はビザの緩和などで東南アジアの人々で初期の賑わいは保てると思います。』と書かれているが、大きな目で見ると、この方向性というのは、初期の賑わいというだけでなく、長期的な賑わいという点でも重要なのだ。繰り返すが、フランスだって訪問外国人の数で多いのは、近隣諸国なのである。

続いて些細な話をいくつか書かれているが、これは日本へのリピート観光を妨げる大きな問題なのだろうか。

外国人向けのJR乗り放題切符であるジャパンレールパスの発行に手間がかかるという例。これが原因で日本に再び来たくなくなるのか。

お手本にするフランスでユーレイルパスを利用する時に、スムーズにバリデートできるだろうか。パリのドゴール空港で無事に荷物が出てくるかどうか冷や冷やして、そして入国できてTGVの駅に行ってバリデートして、というのは、特に初めてフランスに行く人は、簡単に出来ないと思う。初めてだったら、日本でバリデートした方がいいと言われるのではないだろうか。

もちろん、日本のジャパンレールパスも海外で有効化できるようにする、など見習える点はある。しかし、パスの入手に手間取ることが日本への旅行の大きな妨げになるとは、フランスと比較しても思えない。

次に品川駅に段差があるという話をしている。こんな些細な話が訪日客を増やすという大きな目的を語る上で重要なのだろうか。「関空から南海に乗って、新今宮で大阪環状線に乗り換えようとしたら、階段があって不便だったから、海外からのリピーターが増えない」なんて話をしたら、「この人何を言っているの?」と思われるだろう。

他のサイトでコメントにあったが、品川駅の階段は、日本人が京急に乗らずに東京モノレールを選ぶ大きな要因になっている(私もその1人)のであって、外国人がどうこうという以前の問題なのだ。

こういう細かい話をするなら、例えばローマでフィウミチーノ空港に着いて、レオナルドエクスプレスでテルミニ駅まで行ったら、「さすがイタリア。観光国。外国人への気遣いが素晴らしい。」と思うだろうか。少なくとも私は、「やっぱり日本は細かい所への気遣いができるよなあ。大荷物を抱えた観光客を、こんな列車に乗せるかよ。ここはイタリアだから仕方ないよね。」と思った。

そもそも、パリで空港から市内に移動するのに、鉄道は治安の悪い場所を通るから避けた方がいいと言われている状況である。日本だと、京成や京急が治安の悪い場所を通るから避けろ、という話にならないのだから、どれだけ日本の状況のほうがパリよりいいのか、と、私には思える。

あとは、外国人が不安になる、なんてことも書かれているが、これも西洋人の視点でないだろうか。

例えば旅慣れない日本人がフランスに行って、不安になるのは自然なことだろう。それを打ち消すだけの応対をフランス人はしているのだろうか。私はそうは思わない。ドイツ人は好感が持てるが、フランス人はむしろ印象が悪い。ついでに言えばアメリカ人は相手がアメリカ人に合わせて当然という態度に感じる。印象だからどうしようもないが、特に日本人がフランス人と比べて、外国人に対する対応が悪いとは思わない。

もちろん、だから日本が何も努力する必要がないとは言わない。大事なのは目的を果たすために何を最優先にやるべきか、ということである。「訪日観光客を増やす」という目的のためには、アジア諸国からの観光客をいかにリピーターにするかが重要であって、欧米人をどう増やすかというのは別の次元である。日本に住んでいてフランスの大ファンで年に一度必ず遊びに行くという人はどれ程いるだろうか。そういう話を例として挙げるのは適切ではないということを言いたかったので、この記事を書いた。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師