ドイツのトーマス・デメジエール内相が公表した「2016年犯罪統計」によると、犯罪総件数は637万2526件で、前年比(633万649件)で0.7%微増だったが、外国人の犯罪件数を差し引くと2015年より減少していたことが明らかになった。すなわち、難民・移民の犯罪増加によって同国の犯罪総件数がアップしたというのだ。以下、独週刊誌シュピーゲルの記事を参考にまとめてみた。
前年の犯罪統計の公表は毎年慣例のイベントだが、今年が総選挙の年(9月24日実施)だけに、国内の治安問題や難民・移民の犯罪傾向は選挙にも影響を与えるテーマだ。4選を狙うメルケル首相の難民・移民政策の良し悪しが問われることにもなるからだ。
ドイツ連邦統計局によると、同国の総人口は現在、約8280万人で過去最高レベルだ。人が増えると、犯罪件数は増加するが、昨年の犯罪総数から外国人の犯罪を差し引くと約588万件と推定されている。すなわち、昨年の犯罪件数は2015年より少ないというわけだ。
犯罪問題専門家は、「難民・移民の増加は犯罪の増加につながる、具体的には、暴力犯罪、財産犯罪、性犯罪、麻薬犯罪の増加につながる」という。実際、デメジエール内相は犯罪統計公表の際、久しく継続してきた犯罪総件数の減少傾向がストップし、増加したことを認め、「外国人容疑者数は前年比で52.7%急増し、約17万4000人で、犯罪件数は29万3000件だ」と述べている。
2005年秋から難民・移民がドイツに殺到したが、2016年の犯罪件数の中で殺人件数は15年比で14.3%増加、性犯罪は12.8%増、身体損傷件数も9.9%といずれも大きく増加している。単純に考えても犯罪件数の増加と難民・移民の殺到とは密接な関係があると推測できるわけだ。
シリアやイラク、アフガニスタンから難民が殺到したバイエルン州では昨年、2015年比で難民・移民の犯罪件数が倍になるという。具体的には、昨年約3万6000件の犯罪が難民・移民によるものという。そのほぼ3分の1は暴力犯罪(身体損傷、強盗など)だ。バーデン・ヴルッテムベルク州では昨年、容疑者の10人に1人は難民(申請者)だった、といった具合だ。
ドイツでは2015年、16年にかけて100万人余りの難民・移民が殺到したが、その中には犯罪者が紛れ込んでいたとしても不思議ではない。ドイツで働き、金を稼ぎたいという夢を持ってきた難民は収容所生活の中で現実に直面し、失望し、攻撃的となったりする。また、紛争地から逃げてきた難民は悪夢に悩む者も出てくる。ニーダーザクセン州のブラウンシュヴァイク市では難民犯罪のための特別委員会が設置されているほどだ。
もちろん、難民・移民がドイツ人より犯罪的だ、ということはない。ただし、難民の受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)などにとって、難民・移民の犯罪問題は格好の選挙テーマであることは間違いないだろう。
トーマス・デメジエール内相はシュピーゲル誌とのインタビューの中で、「難民が全て聖人ではないが、(全てが)罪人でもない」と答えている。多分、これが正論かもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。