韓国の聯合ニュースが3日、「朝鮮の核実験場がある北東部の咸鏡北道・吉州郡豊渓里付近で人工地震が観測された、北の6回目の核実験の可能性がある」という速報を流した。地震の規模はマグニチュードM5・7だった。日本の気象庁の発表では、地震規模はM6・1だ。
安倍晋三首相は同日、「断固として容認できない。強く抗議せざるを得ない」と述べた。トランプ政権誕生後、初の北の核実験だけに、トランプ大統領がどのような対応をするか注目される。
北の朝鮮中央テレビは3日午後3時、重大報道として「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水素爆弾の実験で完全に成功した」と発表した。北は昨年1月6日の4度目の核実験後も特別重大報道を通じ、「初の水素爆弾実験に成功した」と発表している。また、朝鮮中央通信は先日、金正恩労働党委員長の水爆の核弾頭製造現地視察の写真を流したばかりだ。
北の過去の核実験では、2006年10月9日の1回目の爆発規模は1キロトン以下、M4・1、2回目(09年3月25日)の爆発規模は3~4キロトン、M4・52、3回目(13年2月12日)は爆発規模6~7キロトン、M4・9だった。昨年1月6日の4回目はM4・8の地震波を観測。第68回建国記念日の昨年9月9日の5回目の核実験ではM5・3で10キロトン以上だった。6回目の核実験の規模は最大だ。聯合ニュースによると、「昨年9月の5回目の核実験に比べ、約9.8倍の威力を持つ」という韓国気象庁の分析を伝えている。
ウィ―ンに事務局を置く包括的核実験禁止機関(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長は3日、声明を発表し、「国際監視システム(IMS)の100カ所以上の観測所が今回、北のイベントをキャッチした。昨年9月の5回目の核実験より規模は大きい。核実験だったとすれば、北の核開発が急速に進展していることになる」と警告を発し、北に核実験の中止を呼び掛ける一方、国際社会に向かって、「CTBT条約を早期発効させるべきだ」とアピールした。
なお、CTBTOはHPのトップに「北の核実験」の一報を流した。CTBTOは世界に核実験を監視するIMSを構築し、地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動をキャッチする337施設ネットワークを運営している。
ただし、北朝鮮の人工地震が核爆発だったか否かは、放射性物質キセノン131、133の検出有無にかかっている。地震波だけでは核爆発とは断言できないからだ(人工地震は波形がS波よりP波がはるかに大きいが、今回の地震はそのような特長を見せている)。
放射性物質の検出では、1回目はキセノン133(Xe133)が実験2週間後の10月21日、カナダのイエローナイフ観測所で検出された。2回目は検出されずに終わった。3回目は核実験55日後の4月8、9日、日本の高崎放射性核種観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。そして4回目と5回目の核実験では検出されていない。
検証可能な唯一の方法は現地査察(オン・サイド・インスペクション)だが、核実験を隠蔽しようとする国がCTBTOの現地査察団を受け入れるとは考えられない。だから、北朝鮮の場合のように、核実験の疑いは濃厚だが、断言できない、といった曖昧な状況が続くことになる。
北朝鮮は寧辺の5000kwの黒鉛減速炉を再稼働させ、プルトニウム生産に力を入れる一方、濃縮ウランの生産も進めている。金正恩委員長は父親の故金正日総書記の先軍政策を継続し、①核の小型化、②核兵器運搬手段の長距離弾道ミサイルの製造、③潜水艦攻撃力の強化などを強烈に推し進めてきた。北が6回目の核実験に成功したとすれば、その目標実現に一歩前進したことになる。北は核実験の回数でインドの3回、パキスタンの2回を既に上回っている。
なお、北朝鮮は7月4日と28日の2回、ICBM「火星14」を発射し、8月29日には中距離弾道ミサイル「火星12」を発射、ミサイルは日本上空を通過し、北太平洋に落下したばかりだ。北が6回目の核実験を実施したことを受け、日米韓、中国、そしてロシアは対北制裁を一層強化させる方向に向かっているが、制裁にも限界が見えだしている。効果的な対策がない中で、北の核計画だけが着実に進展しているわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。