資金難のベネズエラを巡るロシア、中国、米国の動向

ベネズエラ・マドゥロ大統領と会談するプーチン氏(ロシア大統領府公式サイト:編集部)

米国トランプ大統領はベネズエラへの制裁の追加措置として8月25日、同国の国債及びベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の社債の取引を禁止した。また、米国に保有しているベネズエラ政府の資金12億200万ドル(1320億円)も凍結させた。これはマドゥロ大統領政権の資金源を断つための手段である。

今後、外国からの資金の投入がない場合、今年後半に予定されている28億ドル(3080億円)の国債償還と、2018年の70億ドル(7700億円)の返済は非常に困難となり、6か月以内にデフォルトに陥る危険性があると指摘したのはS&Pグローバル・レーティングである。

ここまでに至るまでにベネズエラでは以下のような経緯があった。

2年前に1400万人の有権者によって議会選挙が実施され、1999年以来初めて反チャベス派が勝利して議会は野党議員が過半数を占めることになった。

しかし、チャベス前大統領の跡を継いだマドゥロ大統領は大統領に付与されている特権を行使してチャベス前大統領が発布した1999年の憲法の348条に規定されている平和と対話を保障してベネズエラ人の社会権利を守る為として、新たに憲法の設定が必要だといって議会定員545議席の更新を決めたのである。それは野党に支配された議会を解散させるのが狙いであった。そして憲法制定議会の開設の為の選挙投票日を7月30日とした。

それに対して野党は、これはマドゥロ大統領の政権延命の為の策だとして、非公式の国民投票を7月16日に行ってその中止を訴えた。投票者数は凡そ720万人。投票の結果は憲法制定議会の開設に反対する票が95%に達したのであった。

諸外国からも7月30日の選挙の実施に反対して、この投票で選出された議会は承認しないという見解が表明されていた。

しかし、反対派や諸外国からの反対を無視して7月30日にベネズエラで憲法制定議会の議員選挙が強行された。

憲法制定議会は6000人の候補者の間で選挙区から364人、職種別に173人、土着民族から8人が議員として選出された。

勿論、全員チャベス派である。これでマドゥロ政権の継続が保障されたことになる。2年前の議会選挙の前まで議長を務めていたチャベス前大統領の部下だった軍人のデオスダド・カベーリョは今回も選出された。彼はマドゥロと同等或いは彼を勝る権力を握る可能性があると見られている。

今回の投票率は41.53%で、それは800万人弱の有権者が投票したことになるという。処が、100万人が水増し投票していたというのが後日発覚している。因みに、7月16日に憲法制定議会の設置反対で反対派が企画した投票には720万人が投票した。このことから判明するのは、ベネズエラはチャベス支持派と反チャベス派が完全に二分しているということなのである。

軍部も市民と同様に物不足や医薬品不足で苦しんでいるが、保身主義に走ってマドゥロ政権に反旗を翻すことなく選挙結果を尊重した。

一方、ラテンアメリカ諸国や米国そしてEUも選挙結果を承認しないという姿勢を維持した。処が、ロシアは選挙結果を支持する声明を発表したのである。何故?

理由は野党に支配されている議会だと、マドゥロ大統領がこれまで承認したことでも野党に支配された議会では反故にされる可能性あったからである。今回の選挙で憲法制定議会はチャベス派で占めらることになったことから、マドゥロ政権とこれまで合意に至っていたことは今後も継続されるいう保障が成立したことになる。

BBCによると、ロシアはべネズエラに10億ドル(1100億円)相当の額を投資しているという。

また、ベネズエラの石油公社の米国にある子会社CITGOに関してもロシアの石油会社ロスネフトの経営下に置くことも今後容易になる。

しかし、現在のロシアはCITGOをロスネフトの経営下に置くよりも、50億ドル(5500億円)を投資することと引き換えにベネズエラの油田の譲渡の方を望んでいるという。そして、マドゥロ政権によって支配されている議会であれば、この投資も安全だとロシアは見ているのである。

そして、ロシアはベネズエラが抱えている対ロシアへの負債を棒引きする代わりに、ロシア企業の同国への進出を容易にすることも条件として提示する意向をもっているという。

中国も今回の選挙結果に満足しているという。ベネズエラにこれまで650億ドル(7兆1500億円)を投資しているからである。

問題は今回追加制裁をした米国との対応である。

ベネズエラ石油公社の今年はこれまで米国から日毎8万7000バレルの精油された重質ナフサを輸入した。それを混入させて自国の超重質原油を薄めて輸出する為である。また、米国からは日毎1万9000バレルの原油も輸入している。それを精油して輸出する為である。昨年は日毎3万バレルを輸入した。輸入に頼らざるを得ないのは国内での採油量が経済危機と経営効率の悪化で減少しているからである。

一方、ベネズエラが日量190万バレルしか採油していない中で、米国は日毎80万バレルの原油をベネズエラから輸入している。ベネズエラからのこの輸入を中断すれば、ベネズエラの外貨事情は更に悪化する。それはベネズエラの窮状を更に深刻なものにすることになる。

処が米国にそれが出来ない事情があるという。それを実施すると米国内の石油の価格が上昇する可能性があるからである。しかも、ベネズエラからの原油の輸入に関係して直接的そして間接的に数万人の職場が影響を受けるからである。

トランプ政権は近い将来ベネズエラの資金源を断つ新たな策を講じるようになるであろう。一方、マドゥロ大統領は中国に彼の信頼のおける財務関係のチームを派遣してこれまで中国が保有しているベネズエラの国債を新規の国債と買い替えて資金を得る手段を交渉しているということが明るみになっている。