スペイン最高裁のイスマエル・モレノ判事はマドリードに支店を構える中国商工銀行(ICBC)が資金洗浄などを行っていたという容疑で立ち入り捜査し、支店長以下7人が逮捕された。昨年2月にも同じような罪状で支店長らが逮捕されている。
在スペイン中国大使は今年3月にICBCへの(前年の)捜査は中国企業への信頼を失墜させてしまったと忠告したばかりであった。その忠告も無駄であったかのように今月またICBCに捜査が入ったのである。
ICBCがマドリードに支店を開設したのは2010年末。2011年に1億4180万ユーロ(184億3000万円)の取引高が2014年には2億1460万ユーロ(279億円)まで増額していた。
ICBCは表向き他の銀行と同じような業務をしているかのように見せかけているが、彼らの隠された本来の業務はスペインで企業活動をしている中国人を対象に彼らが違法的に得た資金を主に中国に送金することである。
そもそもスペイン国内での融資が行われておらず、融資は外国で行っているということ自体が一般の銀行業務としては疑いの的になる。即ち、外国での融資とは資金洗浄の為の資金の送金であるというのは容易に想像がつく。
スペインの地下経済で中国人を違法に低賃金で雇って得た利益や、輸入で関税を払わず、市販では消費税なしで販売するなどして得た資金を洗浄するためにICBCが一役買っていたのである。
この送金業務についてスペインの脱税などの検査当局からの監視を逸らすべく、ここにスペインの銀行が一部送金に介入していたのである。カタルーニャ州に本店を構えるCaixabankである。例えば、2012年にCaixabankを介して1億8800万ユーロ(244億円)が中国に送金されていたのである。
ICBCの資金洗浄が疑われるようになったのは2012年に起きた「Emperador事件」と2015年の「Snake事件」であった。
前者はGao Pinという中国人が首班になって資金洗浄を行っていた事件である。Gao Pinはスペインで倉庫などを所有して金を儲け、またスペインの政界にもコネクションを持っていたのを利用してスペイン人も脱税を目的に彼のルートを利用していた。この事件で80人が逮捕された。
後者は2015年に中国から輸入した商品の関税逃れを組織的に行っていたとして32人が逮捕され、密輸入で同じく関税及び消費税を支払わずにいたとして47人が逮捕された事件である。
主にこの二つの事件を切っ掛けに警察はICBCが彼らの資金洗浄に関与していたというのが明らかにされたのであった。それが2016年2月のICBCへの最初の捜査となり、支店長らが逮捕された。
それから1年半経過した今月、またICBCが捜査の対象になって、支店長Wei Liu、副支店長Xiuzhen Wang、ヨーロッパICBC総支配人Liu Wang、他4人が逮捕されたのである。彼らは2011年から2014年の間に9000万ユーロ(117億円)の資金を洗浄目的で中国に送金したとされている。
昨年12月11日付でスペイン電子紙『Vozpopuli』が中国人がスペイン資金洗浄予防班(Sepblac)と銀行の頭痛の種になっていると報じた記事がある。その見出しも「スペイン資金洗浄予防班は(スペインの)銀行に中国人顧客を近くで監視するように要求」と題して中国人への不審を強める表現になっている。
経済相の関係当局はスペインの主要銀行と個別に会談をもち、「中国出身の利用客に対し銀行は極力監視の目を強化するように要請した」という。
この要請に至ったのも、資金洗浄予防班が追跡調査をした結果、不審と思える現金の引き出しと入金が目立ってスペインの銀行で観察されるようになり、政府の資金洗浄専門家の間でも警鐘の声が高まったからであるという。
スペインには現在20万人の中国人が在住しているとされており、彼らの多くが食品を含め、あらゆる商品の販売をしているが、彼らは多額の現金を操作し、中国に送金している。また、彼らは密輸入ともよく関係している。そのような事から彼らが資金洗浄を容易に実行する可能性が高いと関係当局は見ているのである。