音楽の都ウィーンには到る所にベートーベン、モーツアルト、ブラームス、シューベルトといった大作曲家のゆかりの住まい、散歩道などがある。ベートーベンやモーツアルトは近所付き合いが良くなかったこともあって、十数回も引っ越しした。そのため、ウィーン市内には巨匠の住まいが到るところにある、といった具合だ。観光には事欠かない。
ところで、ウィーン郊外にある中央墓地にはベートーベン、ブラームス、シューベルトらの巨匠が眠る「音楽家の墓地」がある。そこを訪ねれば、ウィーンを舞台に活躍した大作曲家の墓を一堂に見ることができる(モーツアルトの場合は墓はあるが遺骨はない)。
音楽の都に魅せられ、死んだ後もそこで永眠したいという思いから、中央墓地と交渉し、遺灰をウィーンの中央墓地で永眠させるというビジネスを立ち上げた日本人の話がオーストリア日刊紙プレッセ(9月8日付)に掲載されていた。
生前、ベートーベンを尊敬していたシューベルトが「死んだらベートーベンの墓の傍に葬ってほしい」と語った話は有名だ。シューベルトの墓は現在、中央墓地のベートーベンの墓の傍にある。
シューベルトのように、音楽の都ウィーンでベートーベン、シューベルトらの吐息が伝わる中央墓地で死後、永眠したい日本人を募集する計画が進められてきた。早ければ、年内にも募集が始まるという。具体的には、中央墓地のギリシャ風の古い霊廟を購入し、そこに300人分の遺骨、遺灰を保管する。場所の購入料金は約2万1000ユーロ(300万円)。プレッセ紙によれば、遺骨・遺灰の保管場所は「世界の音楽ファンの墓」と呼ばれるという。
日本では墓地といえば、夜に幽霊が徘徊しているようなイメージがあるが、中央墓地はまったくの別世界だ。墓石には天使や聖霊たちの姿が彫られたり、その家のシンボルが嵌め込まれたりして、墓石そのものがまるで一種の芸術品だ。墓周辺にはある種の華やかさが漂っている。
中央墓地の広さは甲子園の2倍ほどの広さがあり、欧州最大の墓地の一つだ。墓には番号が付いているが、番号を忘れた場合、墓地の管理室にいって教えてもらわない限り、目指す墓地に行き着けないといった事態にもなる。
世界的に火葬が増加してきた。欧州では平均、約半分は火葬する、というデータがあるほどだ。オーストリアの場合、約33%だ。火葬した遺族の遺灰を骨壺に入れて埋葬する家族、死者の願いを受けて遺灰を森林に撒くというケースもある。ここにきて、日本人による、日本人のための、「ベートーベンの傍で永眠を」といった新しい埋葬ビジネスが生まれようとしているわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。