香港が中国に返還され、一国二制度が取り入れられたのが1997年。この制度を50年間は維持することが保証されていますが、骨抜きにすることは中国共産党にとってはいつものように容易いことであります。そして、8月31日に発表された2017年の香港の代表者である行政長官選挙の手続きは純粋な意味で香港人が一人一票を持って民主的に選ぶことからはどうやら遠いものとなってきました。
つまり、香港人にとって中国からの一定の距離と自由の享受はそう長くは続かないかもしれないことを意味しているのかもしれません。
2017年の長官選挙は中国共産党は実質的に中国共産党の方を向いて共産党の為に仕事をする長官を選ぶよう仕向けています。それが何を意味するか、香港人にとって恐ろしい将来がやってくるかも知れないことに再びおびえなくてはいけないのでしょうか?
中国経済は大丈夫なのか、ということが再三再四言われ続けました。実態がはっきりせず、統計の数字もどこまで信用してよいのか、掛け目をどれ位見ればよいのか分からない中で今のところ、強大化する習近平体制が寝技で抑え込んでいるような絵図に見えます。
しかし、13億の民、世界第二の経済規模、不動産バブル、地方都市の財務状態、徐々に高度を下げる経済成長率、賃金上昇などを考えるとこの国の運営を力づくで行い続けられるものではありません。以前、オリンピック10年後にシビアな経済調整を余儀なくさせられるということをこのブログで書きました。東京の1973年、ソウルの1997年、モスクワの1991年、ギリシャの2010年以降などオリンピック後10年前後に国を脅かす規模の大きな問題が生じています。つまり北京は2018年前後ということになります。それが何をきっかけにして起きるのか、予見は出来ませんが、香港の民主化運動は案外きっかけという点ではあり得る話かもしれません。
香港の不動産がいかに高いか、という点については今さら申し上げることもないでしょう。比べる基準にもよりますが、世界トップクラスであることは間違いありません。それは富の上に富を重ねることを可能にし、世界でも最も長い歴史を持った特殊な地域と権益がそれを可能にしました。イギリス統治時代から培ったその歴史は中国本土とは明らかに違う文化であり、地位が構築されました。
その香港を香港人の意向に反して共産党の色に染めることがおこなわれるとすれば、二つの懸念が生じます。
一つは富裕層の離脱。もう一つは残された香港人の強い反発であります。
富裕層が離脱する点についてはリーカーシン氏が既にそれに着手していることからも今後、1~2年のうちにそれが更に進む可能性があります。その場合、香港の不動産市場を後ろ支えしていたものが一旦、取れることを意味し、最終的には中国本土マネーが香港を席巻するトランジションが生じる可能性があります。
また、民主化を共産党が力で押し込んだ場合、香港のみならず、一国二制度を当てはめたい台湾でも同様の反発が出ることは必至の状況となります。
もしも中国にオリンピック10年後の試練があるとすればやはり、民主化運動と共産党の戦いが表に出たときであり、香港問題は正にそのトリガーになりえるのです。
この問題は非常に注意深く見ておく必要があるかと思います。香港マネーがどこに流出していくか、香港のタイクーンと称する人たちの一挙一動に注目が集まるかと思います。
この問題はまだ日本の新聞ではあまり全面的に取り上げられていませんが、あと1年もすれば大きな話題となる気がしております。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。