オーストリアで15日、国民議会選挙(下院、定数183)が実施され、大方の予想通り、クルツ外相が率いる中道右派「国民党」が得票率約31.36%を確保し、第1党となった。第2党は野党第1党の極右政党「自由党」が得票率約27.35%を獲得し、与党第1党の中道左派「社会民主党」(約26.75%)を僅差でリードしている。約89万の郵送投票の集計作業が16日から始まったから、集計次第で第2と第3党が入れ替わる可能性はある。
いずれにしても、選挙後はクルツ外相(国民党党首)主導の連立政権工作がスタートする。安定政権を発足するためには3通りの連合政権案が可能だ。以下、3連立政権案の是非を少し検証してみた。
①国民党と自由党の右派連立政権(可能性は約70%)
両党で議会の定数183議席中、113議席を占めるから、過半数92議席を大きく上回る。両党は政策的には他の政党より近い。両党とも厳格な国境監視を主張し、イスラム系移民問題でも厳しい統合政策を主張してきた。問題は欧州連合(EU)政策だろう。自由党は英国のEU離脱前は反EU政策を主張し、離脱も辞さない姿勢を示してきたが、英国の離脱決定後の国内混乱を目撃し、現在は「EU離脱は考えていない」と軌道修正。国民党はEU統合の促進を終始主張してきた親EU政党だ。
①の最大の難問は、両党の関係ではなく、外部からの圧力だろう。極右政党の政権参加には他の欧州諸国で強いアレルギーがあるだけに、国民党・自由党連合政権が実現すれば、大きな反発を呼ぶことは必至だ。2000年、シュッセル国民党がハイダー自由党と連立を組むことが明らかになると、欧州全土でオーストリア・バッシングが起きたことはまだ記憶に新しい。
②国民党と社民党の連立政権(可能性は20%)
両党で議会で114議席を占める。安定政権だが、ケルン首相(社民党党首)が31歳のクルツ外相の政権下に入るかは不明だ。特に、選挙戦でをフェイク・サイトによるクルツ叩きをしてきただけに、国民党でも社民党との連立には抵抗がある。国民党と社民党の連立政権が再発足すれば、何のためにケルン政権を早期解散し、選挙を実施したのか、という国民の声が出てくるだろう。
政策的には、両党は違いが大きい。教育改革でも双方の主張の違いから改革案が廃案に追い込まれたことがあった。難民問題では、社民党内にクルツ外相の厳格な難民規制政策に強い抵抗がある。それだけに、クルツ外相としても社民党との大連立は少々、荷が重いだろう。
③社民党と自由党の連立政権(可能性は10%)
両党の連立の可能性は決して皆無ではない。ひょっとしたらウルトラCとなる可能性もある。議席数でも103議席だから、過半数を上回っている。ハードルは社民党側にある。同党内には極右政党自由党アレルギーが強い。社民党最大のウィーン市議会のホイプル市長を中心とした社民党左派には「自由党とは絶対に連立交渉しない」という声が聞かれる。選挙戦でも「自由党の政権参加を許すな」と有権者に訴えてきた。ただし、ケルン首相は実業界出身であり、社民党の改革を願っているうえ、自由党への抵抗は他の社民党幹部より少ない。ブルゲンランド州議会ではハンス・ニーセル党首の社民党が自由党との連立政権を発足させている。同党首は「両党の連携は問題がない」と述べ、自由党の連携には積極的な社民党幹部の一人だ。
問題は、自由党が第2党を維持し、社民党が第3党になった場合だ。自由党のシュトラーヒェ党首を首相にすることに社民党内で抵抗が出てくるだろう。党の分裂も考えられる。③のシナリオは社民党が第2党になった場合しか考えられない内容だ。
以上、現時点では①のシナリオが最も現実的だ。国民党が財務相と内相を握る一方、自由党が外相と法相のポストを得る、といった閣僚ポスト分けが考えられる。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。