「緑の党」はなぜ沈没したか

当方はオーストリアの「緑の党」の党員ではないが、同党が15日実施された国民議会選(下院、定数183)で議席獲得に不可欠な得票率4%の壁をクリアできず敗北したことが明確になった時、少々、感傷的になってしまった。31年間、国民議会に議席を有し、野党として活動してきた同党が連邦政治で議席を失ったというニュースは、国民党が勝利し、次期首相に31歳のセバスティアン・クルツ党首が最有力となったという選挙結果と共に、大きな出来事だった。

▲辞任表明した「緑の党」のルナチェク筆頭候補者(左)とフェリーネ党首(右)=オーストリア日刊紙プレッセ10月18日付から

▲辞任表明した「緑の党」のルナチェク筆頭候補者(左)とフェリーネ党首(右)=オーストリア日刊紙プレッセ10月18日付から

全ての出来事には必ず何らかの原因がある。「緑の党」の場合も例外ではない。原因として、党内問題とそれ以外の2点に分けて考えるべきだろう。

前者としては、①「緑の党」党首として久しく活躍してきたエヴァ・グラヴィシュニク(Eva Glawischnig)党首が今春、突然辞任した。②「緑の党」青年部指導者が党本部の決定に反発して蜂起、最終的には脱党したこと、③「緑の党」初期メンバーで政界の御意見番的な存在だったペーター・ピルツ議員が党の比例代表リスト作成で落選したことを不満として脱党し、新党「リスト・ピルツ」を結成したこと、等が考えられる。
後者としては、国民議会選が与党社会民主党、クルツ国民党、そして野党第1党の極右政党「自由党」の3党争いに焦点が集まり、それ以外の政党の活動に有権者の関心がいかなくなったことだ。換言すれば、オーストリア国民議会選の関心はクルツ党首が勝利するか、社民党のケルン首相がそれを阻止するか、自由党が漁夫の利を得るかだけだったわけだ。

「緑の党」はオーストリアの国民議会に24人の議員を抱える中政党であり、議会討論でも存在感はあった。昨年の大統領選では、「緑の党」元党首アレキサンダー・バン・デア・ベレン氏(73)が極右政党「自由党」の候補者ノルベルト・ホーファー氏(46)を破り、欧州政界で初めて「緑の党」出身の大統領に選出されるなど、同党は野党としてそれなりの勢いがあったのだ。

党首の突然の辞任、党内紛争などで勢いを失った「緑の党」は、選挙戦では、党首と党筆頭候補者を別々に擁立し、ウルリケ・ルナチェク(Ulrike・Lunacek)欧州議員が党筆頭候補者に、イングリット・フェリーネ(Ingrid Feline)女史が党首の2頭体制で臨んだ。しかし、選挙戦では3大政党の主導権争いの影に隠れ、その存在感を最後まで誇示できずに終わった。ピルツ氏が新党を結成したことも、「緑の党」には大きな痛手となったことは明らかだ。

「緑の党」は郵送分の集計に期待し、4%の壁を超えることを最後まで期待したが、ダメだった。得票率約3・76%に終わった。その瞬間、「緑の党」の全議員は失職だ。議会の同党関係者、職員約110人は職を失う。バン・デア・ベレン大統領の夫人は「緑の党」議会本部の職員だから、他の職員と同様、職を失う。メトロ新聞「ホイテ」は「大統領のファースト・レディーも失業」という見出しで報じていた。

問題は5年後の次回国民議会選を目指し、党の再生を図ることだ。党幹部は敗戦が明らかになった後、連日、幹部会を開き、対策を協議している。敗戦の原因解明と党の財政問題だ。国からの党補助金は止まるから、財政的に党の運営は厳しくなる。もちろん、州レベルでは議員がいるが、州党の場合、自活が精いっぱいで連邦レベルの党活動を財政的に支援することは難しい。ちなみに、連邦「緑の党」は約500万ユーロの負債を抱えている。

ルナチェク議員は17日、連邦党幹部会後の記者会見で全ての職務から辞任を表明する一方、「わが党は新しいスタートが必要だ。『緑の党』が再び国民議会に議席を獲得できることを確信している」と述べた。フェリーネ党首も辞任し、ベルナー・コーグラー(Werner Kogler)氏が暫定党首に就任した。

環境問題の対応が急務であり、地球温暖化の対策が叫ばれている時、「緑の党」は連邦政治の舞台から姿を消すことになったわけだ。政治学者は「環境問題は『緑の党』の専売特許ではなくなった。全ての政党が取り組む議題だ。『緑の党』は有権者にアピールできる独自議題が必要だ」と分析する。

オーストリアの「緑の党」が国民議会入りして今年で31年目。一方、同国の希望のホープ、国民党のクルツ党首(外相)は今年8月に31歳になったばかりだ。両者とも「31」という数字が出てくるが、前者は凶数、後者は吉数となったわけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。