民主党代表選直後の単独円高介入は、サプライズとなり、菅総理選出による円高進行に歯止めがかかり、輸出産業を中心に評価の声が上がりました。
しかし、菅内閣の誕生によるさらなる円高進行による影響を打ち消したい政治ショーではなかったのかという印象を拭えません。
円・ドルだけでも、一日に50兆円に上る巨大なマーケットに、資金に限りのある日本が単独介入を行ってもどれほど今後も効果が持続するかは未知数としても、仙谷官房長官が82円を防衛ラインとすることを認める発言を行ってしまったことは迂闊でした。投機筋は、これで安心してマネーゲームが行えます。
かつて、日本が空前の為替介入を行った2003年~2004年の結果なにが起こったでしょうか。円高の防衛ラインが確定され、その安心感から円で資金を調達し、高金利国の通貨で運用する円キャリー取引の誘発であり、世界的なバブルの発生でした。
また日本の前回の為替介入はスウェーデンのGDPを超える30兆円という空前の金額を投じたにもかかわらず、結局、為替介入をやめたとたんに、円相場は急速に上昇し、今日の状況を生みました。
「極東ブログ」が仙谷官房長官の失言、ドル安誘導で輸出を増やしたい米国が、この単独為替介入にいらだっているにもかかわらず、米国政府が沈黙を守ったことは、やがて代償を求めてくる懸念などをまとめているので参考になります。
日本単独為替介入の意味「極東ブログ」
円売り介入は「ソロスたち」への招待状、投機シーズン解禁-ペセック
2003年から2004年にかけて30兆円の資金投入を行って、国内ではなにが起こったのでしょうか。外需依存体質の定着と、産業の構造転換を遅らせる結果だったのではないでしょうか。
輸出企業は、海外バブルの恩恵も受け、空前の利益をだしますが、その利益の所得分配も行われず、国民にとっては実感のない好景気が続きました。しかも日本の競争力低下には歯止めがかからなかったのです。
為替介入で日本が溜め込んだドルはおよそ100兆円で、1ドル85円の為替レートでも、25兆円程度の為替損失になります。それは国民の負担であり、なんら問われないというのは健全ではありません。
円高は、日本は貿易黒字がでていること、欧米がデフレを克服しているにもかかわらず、日本はデフレを克服できず、円の価値が相対的にあがっている限り、目先の対応でそれを阻止することは困難でしょう。
まずはデフレの解消に本気になることでしょうが、むしろ、多くの企業が円高を好機として海外企業のM&Aに動き始めていますが、以前にも書いたように、政府も円高を利用して、資源国支援や資源の権益の確保に走れば、欧米も慌てて、円高阻止に動くのではないでしょうか。
円高は国内の製造業の空洞化を促進するとして危機感をつのらせる報道が目立ちますが、、日本の製造業の海外移転は、日本のFTAが進まない限り、円安になっても進みます。
日経ビジネスが、「気がつけば、タイが自動車王国に」というタイトルで記事を書いていますが、自動車産業はタイへの投資を急激に増やしており、もうすぐ、「国産車」がタイから輸入される時代となるのです。
気がつけば、タイが自動車王国に
円高だけでなく、FTAや地域間貿易協定を推進すること、途上国には追随できない産業の高度化をはからなければ、工場は海外にでていきます。日本の強い部品産業のなかには、実際に技術の高度化をはかり、高度化した技術のブラックボックス化のために、工場を日本からださないという姿勢を貫いている企業もあります。
菅内閣が行わなければならないのは、為替介入で点を稼ぐことではなく、もっと本質的な解決をはかる政策のはずです。そのためには、日本の産業の将来の姿を描き、経済界、また国民と共有していく努力を行うことではないかと思います。
株式会社コア・コンセプト研究所
大西 宏