事業仕分けの第3弾として、10月25日から特別会計にメスが入れられることになっている(もっとも、その準備は民主党代表選があった影響でやや遅れているようではあるけれども...)。特別会計のあり方を点検すること自体は、行政刷新の趣旨にかなっており、基本的に賛成である。しかしもし、いわゆる「埋蔵金」を探して財源を捻出することが主眼とされているとすると、それは違うと言わざるを得ない。
一般会計の貸借対照表(B/S)のイメージは、次の図のようなものである。
ただし、以下の図における「国債」は、政府短期証券等も含む政府債務全般を指している(広義の意味だ)と理解されたい。また、えんじ色で塗りつぶした部分は、債務超過額(財政赤字の累積額に相当)を意味している。
これに対して、特別会計の貸借対照表(B/S)のイメージは、次の図のようなものである。
特別会計の場合には、資産が負債を上回っており、純資産にあたる積立金(の類、これも広義)が存在している。かつて財務大臣時代に塩川正十郎氏は、こうした実態を「母屋(一般会計)でおかゆを食って辛抱しているのに、離れ(特別会計)で子供がすき焼きを食っている」と表現した。ここで積立金と書いたものが、しばしば霞ヶ関「埋蔵金」と呼ばれているものにほかならない。
埋蔵金というと、金塊か現金の形態で金庫の中に保蔵されているようなイメージを抱きがちだが、霞ヶ関「埋蔵金」は国債(広義)で運用されているのが普通である。言い換えると、一般会計が発行した国債の一部は特別会計によって保有されている。その結果、市中(日銀を含む)向けに発行されている国債(*)の額は、名目的な発行総額よりも少ない。一般会計のB/Sに特別会計の積立金とそれの見合いの国債を連結すると、次の図のようになる。
(*)厳密には、ここでいう「市中向けに発行されている国債残高」の一部も、特別会計によって保有されているが、その保有分に見合う特別会計の負債が存在するはずなので、相殺されて残高は変わらないとみなしておく。
要するに、一般会計と特別会計を連結して考えると、債務超過額と国債発行額は、ここで言う積立金の分だけ、一般会計だけを単体でみたときよりも小さい。それでも、残念ながら現状では債務超過は残り、その額は「平成20年度国の財務書類(一般会計・特別会計)の概要(決算)」では、317兆円あまりとなっている(この数字には、資産を時価評価していない等の問題がある可能性はあるが、前年度から35兆円弱も増えている)。
ここでもし、積立金を財源として使ってしまうとどうなるか。使途が政府消費や移転支出であるならば、次の図のようになる。すなわち、債務超過額と市中向けに発行されている国債残高が使った分だけ増加することになる。
使途が政府投資(資産の形成)であれば、次の図のようになる。すなわち、債務超過額は変化しないが、市中向けに発行されている国債残高は使った分だけ増加することになる。
要するに、市中向けに発行されている国債残高を基準にしてみると、「埋蔵金」を財源とするというのは、その分国債を増発するというのと同じである。不必要な積立金を「埋蔵金」として保有すべきではないの当然だが、それは既に国債購入に使われているのが現実であるから、もし不必要な積立金が見つかれば、政府債務の償還に充当すべきである。そうしないで他の用途に流用すると、国債を増発するのと実質的には同一になってしまう。
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なお、日本の財政問題に関心がある向きには、小黒一正『2020年、日本が破綻する日』日経プレミアムシリーズがお薦めである。本記事と同趣旨のことは、同書のpp.98-100においても述べられている。
コメント
埋蔵金の正体は国民の預金である可能性が高いということまで言及が欲しいところです。
なんとなく何処かで聞いたことがあるような話題かなと思い調べてみましたら、池田信夫さんの「上杉氏が理解していない簿記の基本」(http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51301147.html)だった。
池田さんの主張は、例え忘れていたヘソクリが出てきたとしても、借金が減るわけではないという事なんだが、今回の記事は、そのヘソクリすら借金で出来ていたという事なんですね。
ヘソクリは財源にできないという点が共通しているご主張と感じました。全くその通りだと私も同意できます。