地方創生の鍵は政府がなにをするかではなく、なにをやめるかです

大西 宏

地方創生というと、東京の一極集中化によって人口が減少し、高齢化の急速な進行と経済の疲弊で破綻にむかう地方をいかに救うかという発想になりがちです。だからカネを配る、公共事業で雇用をつくろうとするのですが、焼け石に水でしかありません。しかし、地方創生は、それぞれの地方が自力で地域を経営する能力をアップしていくしかないのです。


過去を振り返ると、カネを配る、公共事業でハコモノをつくることは、かえってその地域経営力を損ね、地方の疲弊をさらに進行させる悪循環があったように思います。それで成果が出ないのは、構造不況に陥った企業に資金をつぎこむことと同じだからです。そうではなく、なぜ、地方が自らで地域を経営する力が落ちてしまったのかを考えなければ、この悪循環からは抜けだせません。

その悪循環を断ち切るには、地方に対して「なにをするか」ではなく、「なにをやめる」か、あるいは「なにをしないか」を決めることです。

政府と地方の不健全な関係は、政府を資金を供給する株主や銀行にみたててみるとよくわかります。もし、企業で投資した株主や資金を貸し付けた銀行から人が現場にもやってきて、事細かに、そのやり方は法律では認められておらず、コンプライアンス違反だ、そのやり方では駄目で、これだけの予算をこう使えと、いちいち口をはさんで指導されるとどうなりますか。社長の決済権も限られており、いちいち陳情して、お伺いをたてて、予算を認めてもらう、そんな企業が成り立つわけがありません。

地方自治体の場合は、そんな「指導」を担っているのが霞ヶ関の官僚組織です。縛りは、さまざまな全国一律の規制と、交付金です。官僚組織は、規制通りに、また適正に予算が使われるかには関心はあっても、いくらそれで地方の経営が傾いたとしても責任をとることはありません。中央政府の干渉をやめる、それが地方分権です。

その「なにをしないか」で安倍内閣がすすめようとしている政策が、規制緩和と国家戦略特区ですが、まだまだ部分的で、交付金そのもののあり方や中央集権型の体制からの構造改革に切り込むまでにはいたっていません。

しかも、地方分権化によって、経済を多極化することは、今日の経済がモノを生み出すことが付加価値となっていた工業化の時代から知識や知恵を生み出すことが付加価値となるサービス化、また情報化の時代には極めて重要になってきます。
今、先進国では、中央集権型の国と分権型の国で明暗がわかれてきています。分権型の米国やドイツは好調で、中央集権型のフランスやイギリスが低迷し、そしてもっとも中央集権型で一極集中化してしまった日本が最悪な状態になってしまっています。がそれは多極化した経済のほうが、独創的で個性的な産業が生まれてくるからです。

地方のほうが、地価も家賃も安いために、起業コストも安く、しかも働き手もそのほうが恵まれた生活環境を手に入れることができ、知的生産に向いているからでしょう。

日経の「大機小機」にも、地方創生は、中央集権型の地方支援ではなく、地方への権限委譲がなければならないとが指摘されていたので引用しておきます。
大機小機「国のかたちを問う地方創生を」日本経済新聞

補助金や交付金といった中央集権型の地方支援ではなく、税財源など権限の移譲を受ければ、自治体は選択肢が広がる。知恵も生かせる。税制優遇で企業誘致も可能だ。福祉か公共投資か、身近なおカネほど丁寧に使うから、国・地方を通じた財政合理化につながる。

自治体も変わるしかない。どこかがゆるキャラやB級グルメで成功したと聞けば、すぐに飛びつく。残念な横並び意識だ。伝統文化は大切だが、閉鎖的では意味がない。「開かれた地域社会」こそ生き残る道である。

自治体の首長が先頭に立つべきは外資を含む企業誘致であり、中央政府詣でではない。政府が地方に派遣するなら官僚より、地域に愛着のある企業人の方がいい。異次元の地方創生と振りかざすのではなく、本筋の改革に国、地方あげて取り組むことだ。分権なしに地方創生はない。

思い起こしていただきたいのは、今は農業の6次産業化が大きな流れになってきていますが、もともとその流れが起こったのは、農協から自立し、また食管法を破って米の自ら販路を開いて販売する農家の動きからでした。

大阪が戦後復興に成功したのも、阪急電鉄創業者小林一三が霞ヶ関の全国一律の復興計画に異を唱え、民間の力を結集させたことが大きかったといわれています。そのことをメルマガで取り上げたことがありました。
夢やビジョンを描く能力

万博公園のエキスポランド跡地の再開発を三井不動産に任せ、アウトレットモールと、海遊館やシネマコンプレックスなどが来秋にオープンします。立地に恵まれているので、また大阪の魅力ある観光スポットになるものと思います。そして大阪市が、大阪城公園の運営を民間に任せるというニュースを産経新聞が報じています。
委託料は払わずに事業者の創意工夫で収益を上げ、年に2億2600万円以上を大阪市に納付させていく仕組みだといいます。まさに伝統的な大阪商法そのものです。
【大阪城民間委託】城郭管理に委託料なし! 強気の〝橋下商法〟 – 産経WEST

地方に任せば、こういったアイデアももっと生まれてくるはずです。官僚組織はそういったアイデアを生む出すには向いていないのです。
さて、石破大臣は、ちまちました効果のないバラマキをやめ、地方分権こそ地方創生の本丸だ、任せるものは地方に任せるという切り込みで地方創生に取り組んでいただけるのでしょうか。期待したいところです。