ほぼ7年ぶりの株価や為替水準、更に見たことがない10年物国債の水準を作り出した日銀、黒田総裁。
異次元の緩和第二弾の可能性は確かに存在していました。しかし、少なくともこの10月の定例会議でそれを打ち出すと予想した向きはかなり少なかったことがそのサプライズ感を更に押し出しました。狂気乱舞する株価ボードを見ながら「何か違う」と疑問に感じている私は少数派でありましょうか?
異次元の緩和第二弾を行なうならばそのタイミングの選択は3つあったと思います。10月、11月、年明けであります。それは消費税引き上げの決定に密接に関係します。年明けならば日銀の独立性は保たれ、異次元の緩和と消費税を結び付けにくくなります。11月18-19日の場合は11月17日の7-9月のGDP速報発表を受けて異次元の緩和第一弾の結果が十分ではなかったことを指し示すことになり、日銀の負けを強調します。とすれば、今ならば12月の消費税引き上げの発表との関連性もさほど強くない中で安倍首相の援護射撃になります。私もこのブログで消費税引き上げのための甘い蜜が出てくるだろうとは指摘していました。
次いで年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国債の運用を減らし、株式運用を増やすというアナウンスとマッチポンプであることもタイミング的にピッタリであります。勿論、発表後の話ですから今なら何とでも言えるのでありますが、それにしてもGPIFの国債の運用の減少分を日銀が拾い集める構図が正しい姿なのか、「やらせ」とも言われかねないこの違和感の異次元緩和にやや戸惑いを感じています。
では、この異次元の緩和第二弾が本当にインフレ率を高め、日本経済をしっかりしたものにするのか、といえば個人的にはしっくりきません。まず、112円半ばに差し掛かろうとしているこの円安がもたらすであろう来年の物価高は日本の消費者にボディブローとなります。つまり、消費税が10%となり更に物価がびっくりするほど上がるであろうことを考えれば2%という物価目標は達成するかもしれませんが、極めて質の悪いスタグフレーションとなるのではないでしょうか?
例えばコーヒー豆は2割以上値上がりしそうで100円コーヒーがコンビニからもマックからもなくなるかもしれません(食品の物価上昇は単に為替の理由だけでなく、輸入の際、中国の大量消費で買い負けしているところに大きな理由が潜みます)。私はそんな厳しくなる日本の社会が仮にでも来るのであれば恐ろしく残念であります。
折しもアメリカは量的緩和からの脱出に成功しました。日本は更に緩和でその経済の健康度合いがあまりにも違うことに本当に狂気乱舞している場合なのでしょうか? アメリカは2008年のリーマン・ショックからわずか6年で入院生活を終え、リハビリに入ります。日本は一体何年間入院をし続けなくてはいけないのでしょうか?
私の知り合いのある人がこの為替を見て、「資産を分散化しておいて良かった」と呟いたその深い意味を考えれば日本人が日本の将来を真剣に危ぶんでいるともいえるのです。アメリカは昨年あたりからレパトリ(本国回帰)を推し進めました。「アメリカに製造業を、そして輸出国家にしよう」という目標でありました。一方の日本は貿易赤字、経常収支も危うくなってきたのに円安を喜んでいるのは明らかにずれています。
今やソニーの顔で隠れた代表者と言われている吉田憲一郎CFOは「金融緩和によって日本の景気全体が良くなることはプラスだが、当社の事業構造上では円安はマイナスの影響が大きい。1円の円安が年間30億円の営業減益要因となる」(日経より引用)と決算発表の際、述べています。
今回の異次元緩和、裏で手を引いたのは政府。そして日銀は見事に踊った、という事でしょう。黒田総裁の顔つきは以前の自信に満ち溢れている輝きがなかったように感じましたが、気のせいでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。