ローマ法王の人事から見える風景 --- 長谷川 良

アゴラ

バチカン放送独語電子版が11月8日公表したところによると、ローマ法王フランシスコは保守派代表の一人、レイモンド・レオ・バーク最高裁長官(枢機卿)を解任した。後継者の最高裁長官には、ドミニク・マンベルティ大司教が就任した。同大司教はパロリン国務長官のもとで外務局次官(外相に相当)を務めてきた。新外相には、オーストラリア駐在のバチカン代表だった英国リバプール出身のポール・リチャード・ギャラガー大司教が任命された。


この一連の人事の中で注目されたのはバーク枢機卿の最高裁長官解任だ。なぜならば、米国出身のバーク枢機卿は同性愛や再婚問題に対して教義主義者として知られてきた聖職者だからだ。同枢機卿はバチカン法王庁が先月開催した特別世界司教会議(シノドス)でゲルハルト・ルードビッヒ・ミュラー教理省長官と共に同性愛問題や離婚・再婚者の聖体拝領問題で厳しい批判を展開した一人だった。それだけに、フランシスコ法王のバーク枢機卿解任人事について、欧米メディアは「改革を進める法王が保守派の代表的な聖職者を追放した」「ローマ法王と保守派聖職者の戦いが始まった」といった論調を掲載しているほどだ。

バーク枢機卿の新しい人事先はマルタ騎士団のバチカン代表だ。枢機卿としては66歳とまだ若く、やる気満々の聖職者だ。マルタ騎士団のバチカン代表は明らかに閑職だ。だから、「改革派法王から追放された」という欧米メディアの論調には一理ある。

バーク枢機卿は「フランシスコ法王の敵」といったメディア報道に対し、ニュースポータルAleteiaとのインタビューの中で「ペテロの後継者ローマ法王に対してどうし敵対できるか」と述べている。同枢機卿が以前、ローマ・カトリック教会の現状を「船長のいない船」と発言したことに対し、「フランシスコ法王を示唆したものではなかった」と弁明している。ちなみに、バーク枢機卿はイタリアの日刊紙イル・フォグリオとのインタビューで「シノドスは多数派が政策を決める民主主義的議会ではない」と述べ、改革派を強くけん制している。

フランシスコ法王の人事を別の観点から検証してみよう。バチカン放送によると、ローマ法王は5日、バチカンの司法関係者の謁見を受けたが、そこで「教会婚姻の無効手続きを簡易化、迅速化するだけではなく、手続き代を無料にすることも考えるべきだ」と助言している。

婚姻無効手続きは離婚、再婚者の聖体拝領への道を開く法的手段だ。同手続きはこれまで複雑なうえ、時間がかかった。そのため、多くの離婚者たちは教会の祝福が得られないために新しいパートナーとは同棲状況を続けるケースが多い」(フランシスコ法王)といわれる。特別シノドスでは離婚・再婚者の聖体拝領問題に関連し、教会婚姻無効手続きの簡易化、迅速化についても話し合われた。

なお、フランシスコ法王は特別シノドス開催前、婚姻無効手続きの改革に関する委員会を設置し、その副議長に法王の出身地アルゼンチンから法王の知人の教会司法関係者(Alejandro Bunge)を就任させている。

離婚・再婚者への聖体拝領に対して「教会の教えに反する」と発言してきたバーク長官をそのポストから追放する一方、婚姻無効手続きを簡易、迅速化する委員会を設置した……これらの一連の動きは、法王が離婚、再婚者への聖体拝領を認める方向で慎重にコマを進めている、と受け取ってほぼ間違いがないだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。