カトリック教国から無宗教国家へ? --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリア科学アカデミーは先日、首都ウィーンの2046年宗教界を予測した研究結果を発表した。それによると、ローマ・カトリック教会が第1宗教の位置をかろうじて維持する一方、イスラム教は2011年時のほぼ倍化する。そして無宗教者が国民の3割を占めている。

先ず、2011年ではカトリック教会が41%、イスラム教12%、無宗教30%、正教9%、新教4%、ユダヤ教0・5%、その他3・5%だった。それが46年では、カトリック教33%、イスラム教21%、無宗教27%、正教11%、新教4%、ユダヤ教0・5%、その他3・5%となっている。


11年から46年の間でカトリック教は8%をその勢力を失う一方、イスラム教は12%から21%に急増。一方、無宗教は30%から27%にほぼかわらず、正教は9%から11%に増加している。
 
アルプスの小国オーストリアは久しくローマ・カトリック教国と呼ばれてきた。戦後から1960年代までは人口80%以上の国民がカトリック教徒だったから当然だが、1970年に入るとその割合は78・6%と80%の大台を割った。20年後の1990年には53・2%となり、新世紀の西暦2000年に入ると、52・5%、そして2046年にはその割合は33%と低下すると予想されているのだ。人口80%以上がカトリック教徒だった国で国民の半分以上が教会から離れていくわけだ。民族大移動というより、信者大移動というべき現象だ。

もちろん、カトリック教会の衰退現象には理由がある。聖職者の未成年者への性的虐待事件の多発で教会は完全に社会の信頼を失ってしまった。そのうえ、2000年前の教えに固守し、現代人の反発と冷笑を受けてきたからだ。南米出身のフランシスコ法王がローマ法王に就任した後も信者の教会離れは、聖職者の性犯罪と同様、続いている。

一方、イスラム教徒の増加は移住者の急増が大きな原因だ。ボスニア紛争、中東紛争の影響で多数のイスラム教徒が流れ込んできた。イスラム教徒の高出産率は人口増加を後押しした。ただし、ここにきてユーロ・イスラム教徒の出産率はキリスト教徒と同じように低下傾向がみられる。

オーストリア科学アカデミーが指摘しているように、政府の移住者政策が変わり、その受け入れが厳しくなった場合、当然、46年のイスラム教徒の数にも反映してくるだろう。

驚くべき点は、無宗教者が1970年に10・3%に過ぎなかったが、2011年には31%の国民が「宗教を持っていない」と答えていることだ。音楽の都ウィーン市は他の欧州都市と同様、世俗化の波に押されている。例えば、「神はいない運動」が数年前、英国で始まり、ポーランドやオーストリアなどカトリック教国でも拡大してきた。同時に、知識人の間で不可知論者が増えてきている。

ウィーンは17世紀、イスラム教の北上を阻止したが、無宗教者の増加に対し、これまでほとんど無防備状況だ。オーストリアがカトリック教国に留まるかどうかは無宗教者の対策如何にかかっているわけだ。

蛇足だが、現代の無宗教者には、個人的には何らかの信仰、信念を有しているが、既成宗教団体への不信が強く、如何なる宗教にも所属しない、という人々が多い。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。