総務省の家計調査によると、10月も消費支出が実質で前年同月比4.0%減で7カ月連続のマイナスで、物価変動を考慮しない名目でも0.7%減でした。
実質消費支出、10月は4.0%減少 7カ月連続減 :日本経済新聞
GDPの6割弱を占める個人消費の回復の遅れが続いています。2期連続で経済成長率がマイナスとなりましたが、10~12月期も、国内消費が不調で、たとえ経済成長率がプラスに転じたとしても、景気回復はあまり期待できそうにない状態が続きそうな気配です。今回の衆院解散は「アベノミクス」を問うものらしいのですが微妙になってきています。評価しろといわれても、戸惑うのは、効果も今のところ出ておらず、「アベノミクス」のなにを継続したいのかもよくわからないままだからです。
それにしても絶妙なタイミングの解散です。安倍内閣の支持率が高い背景には、多くの国民はアべノミクスの恩恵どころか、逆に円安が、企業でいえばコストアップとなり、また家計を圧迫して暮らし向きは悪化したのですが、まだ期待感が残っている状態だからでしょう。
安倍総理の懐刀といわれる本田参与がおっしゃるように、たとえ「アベノミクスがうまく行っている」としても、もし10~12月も景気回復が弱い、場合によっては3期連続のマイナスだったとすれば、今回の選挙はどう動くでしょうか。きっとマスコミも大騒ぎとなり、国民のアベノミクスへの淡い期待感も失せて、アベノミクスは失敗だったというレッテルが貼られ、批判票がどっと増えるはずです。
しかしそんな事態は起こりません。
10月~12月のGDP第一次速報値が発表されるのは、来年2月で、もう選挙は終わっているからです。今回の解散は、安倍総理また与党にとっては絶妙のタイミングなのです。
アベノミクスについては、本丸の第3の矢の成長戦略で、あっといわせる中味がないので疑問に感じていますし、既得権益のしがらみに支えられている自民党政権が規制緩和や構造改革にどこまで踏み込めるのかは疑わしい限りですが、いずれにしても、日本の潜在成長力を高めるには時間を要します。
マクロ経済ではなく、ビジネスの視点で言っても、景気が足踏み程度の状態であれば、企業努力のほうが業績に与える影響ははるかに大きいので、目先の景気に惑わされることは健全だとは思わないにしても、改革を実行するためには国民の強い支持が必要です。その支持の強さは目先の景気によって大きく影響されます。少なくとも景気は選挙に影響してきます。
ところで10月以降の景気は実際にはどうなっているのでしょうか。
おそらくほとんど回復していません。それを感じるのが幹線道路の渋滞状況です。
多くのエコノミストやシンクタンクの予想を裏切って、7~9月期も経済成長はマイナスが続きましたが、幹線道路の交通量のサインは、景気回復の遅れをはっきり示していたので、エコノミストの予想よりは、そちらのほうがもしかすると確かなのかもしれません。
10月にはいっても、道路も空いたままでした。やはり、内閣府の景気ウォッチャー調査結果、先に触れた総務省の家計調査結果などの数字もよくありませんでした。内閣府の消費者態度調査でも10月は、9月よりも消費マインドが冷え込んでいます。スーパーやコンビニ、また百貨店などの販売動向、外食産業でも低調な企業が増えました。さまざまな数字を見れば、10月も国内経済は低調なままです。
11月にはいってさらに道路は空いてきました。
道路の混雑と景気動向とは関係ないと言われそうですが、はたしてどうなんでしょうか。
少なくとも、ビジネスに勢いがあれば、平日の幹線道路の車の量も増えることは異論がないと思いますが、ほんとうに道路の交通量が景気判断のサインとなるのかを念の為に確かめてみました。
今通勤に利用している道路は、中国道から大阪府をつないでいる中央環状線(府道2号線)と箕面から大阪市内をつなぐ新御堂筋(国道472号線)です。いずれの道路の混雑状態も、ほぼ中国自動車道、名神高速道路、また阪神高速道路と交通量とリンクしています。
幹線道路の交通量の適切なデータがないにしても、高速道路の交通量はわかります。そこで、独立行政法人「日本高速道路保有・債券機構」が発表している主要高速道路の交通量のデータとGDPのうち国内需要動向の四半期の推移をグラフ化し、比較してみました。
厳密なことを言わなければ、やはり景気動向と高速道路の交通量は関係していそうです。首都高速の交通量が比較的安定しているのは、おそらく首都高速のキャパシティの問題で、一定以上増えないからではないでしょうか。
逆にこのグラフを見ていると、7月~9月の国内需要の速報値が高すぎるのではないかとすら感じてしまいます。12月8日に発表される第二次速報値結果で確かめて見てみたいものです。
安倍総理の選挙戦は巧みです。円安が国内産業と家計、とくに地方経済を痛めてきていることを意識し、地方からのスタートです。しかも遊説では、地方へのバラマキを期待させる口調だということが気になります。バラマキでは票はとれても、潜在成長力は高まりません。
自民党の公約で、アベノミクスの成果を数字で示していますが、いいとこどりしすぎなのも気になります。改革に本気なら、厳しい数字も見てもらい、どのような痛みを分かち合わなければならないか、なにが本当の課題なのかを示すべきでしょう。
とくにアベノミクスの効果で賃上げ率は、過去15年で最高の2.07%となったとしていますが、それは大企業に限った話です。すくなくとも総務省の行なっている家計調査では、二人以上の勤労者世帯の実収入は、2013年の秋以降、前年割れが続いています。アベノミクスの効果が実感できるわけがありません。
家計調査 収入及び支出金額・名目増減率・実質増減率(PDF)
だから多くの国民は、半信半疑なのでしょうが、野党からも強いメッセージが送られてこないので、声の大きい方、強そうなリーダーを信じるしかないという状況ではないでしょうか。