オーストリアで国民議会(下院、定数183)選挙後、連立交渉を続けてきた中道右派「国民党」のセバスチャン・クルツ党首と極右政党「自由党」のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首は15日、「連立交渉は成功裏に終わった」と述べ、連立政権の発足で合意したことを明らかにした。
10月15日の国民議会選で国民党はこれまで第1党だった社会民主党(ケルン党首)を抜いて第1党に復帰し、自由党は得票率約26%で第3党に躍進。国民党と自由党両党からなる新政権は議会で113議席を占める安定政権となる。なお、国民党から首相が出るのは11年ぶり。
国民党はメルケル独首相の政党「キリスト教民主同盟」(CDU)の姉妹政党。2015年に中東・北アフリカから大量の難民が欧州に殺到した時、メルケル首相は当初、難民歓迎政策を実施したが、隣国オーストリアの31歳のクルツ外相(当時)はいち早く難民が殺到するバルカンルートの閉鎖、監視の強化に乗り出した。難民対策で意見が分かれていた欧州連合(EU)でもクルツ党首の難民政策を評価する声が高まっていった。ラインホルト・ミッテルレーナー党首が今年5月突然辞任すると、クルツ氏は国民党党首に就任し、国民的人気をバックに総選挙で国民党を第1党に押し上げた。
一方、自由党は“オーストリア・ファースト”を掲げ、厳格な反難民政策を主張し、EUに対しても批判的な声が強かったが、英国に倣ってEUを離脱する案は撤回。同党はイェルク・ハイダー前党首時代、反ユダヤ主義を標榜し、ネオナチ政党というレッテルが貼られたが、シュトラーヒェ党首時代に入り、反ユダヤ主義を修正し、同党首自身がイスラエルを訪問するなど党の極右イメージの是正に乗り出してきたばかりだ。
クルツ新政権は18日、大統領府でバン・デア・ベレン大統領のもと宣誓式を行った後、正式に発足する。オーストリア国営放送によると、新政権は14閣僚から構成され、8閣僚が国民党から、6閣僚ポストは自由党から出る。自由党は外相、内相、国防相、社会相など主要ポストを得る。
「緑の党」出身のバン・デア・ベレン大統領はクルツ党首に法務省と内務省を同一の政党(この場合、自由党)に渡さないように要請する一方、ネオナチ的言動の自由党政治家の閣僚入りには反対する意向を伝えてきた。欧州では極右の自由党参加の連立政権に対し、批判的な声が挙がっているからだ。新政権で内相と国防相が自由党の手に渡ることに警戒心の声が既に聞こえる。また、EU本部ブリュッセルからは、反EU路線を主張してきた自由党の政権参加に警戒心はある。それに対し、クルツ党首は連立交渉の中で外務省を自由党に委ねるが、欧州問題担当は首相府が主管する体制を取り、自由党がEU政策を主導することを避ける考えだ。
国民党と自由党の連立政権は今回で3回目。シュッセル首相の国民党と自由党の連立政権が2000年に発足した時、欧州諸国から「極右政党の政権参加」に強い批判が生まれ、EU加盟国はオーストリア新政権への制裁を実施したほどだ。ただし、自由党のクルツ政権参加に対しては一部批判が聞こえるが、シュッセル政権当時と比べると、その声は小さい。
連立交渉では、企業の税負担の軽減、大学の学費再導入、一日の最大労働時間12時間など新しい政策を実施することで合意している。野党に下野した社民党などから反対が予想される。
31歳のクルツ党首は欧州最年少の首相となる。新政権(任期5年)には専門家と女性閣僚が多いのが特長だ。若いクルツ党首が自由党に振り回されることなく、その政治手腕を発揮できるかが注目される。一方、自由党はその政務能力が問われる機会となる。欧州の他の極右政党への影響も無視できない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。