2017年、アメリカにトランプ政権が誕生した。主要メディアでトランプ当選を予測した専門家は(私を含め)数名しかいない。同年、私の予測どおり北朝鮮の危機が高まった。いや、過去形で書くには早い。まだクリスマスから年末にかけ、何が起きても不思議でない。
北朝鮮はこれまでアメリカの祝祭日や米大統領の重要な演説日に核実験や弾道ミサイル発射を繰り返してきた(拙著『安全保障は感情で動く』文春新書)。日本のマスコミは今なお「北朝鮮はこれまで自国の重要な記念日に軍事的な挑発を繰り返してきました」(NHK)と報じているが、いわゆるフェイクニュースの類にすぎない。
げんに2017年も北朝鮮は(私が当欄で予測したとおり)7月4日の米独立記念日にICBM「火星14」を発射した。同年春、マスコミ御用達の「識者」らが、4月15日(金日成誕生日)と4月25日(朝鮮人民軍創建記念日)を「Xデー」と呼んだが、いずれの日も無事に過ぎた。同年4月に行われた北朝鮮の軍事挑発は(私が予測したとおり)キリスト教国アメリカにとって重要な「イースター」(復活祭)の朝となった。
そのイースターと並んで重要な記念日がクリスマスである。北朝鮮が行動を起こす可能性を否定できない。平穏無事に12月26日(米時間では25日)が過ぎても、油断は禁物。米軍を含めアメリカは官民あげてクリスマス休暇が続く。攻撃する北朝鮮にとっては都合がよい。ちなみに第1次朝鮮戦争も日曜日(キリスト教徒の聖日)に起きた。
アメリカにとっても都合がよい。「クリスマス休暇」を口実に、韓国に滞在する米軍兵士の家族を、安全な本国に戻す絶好のタイミングである。事実すでに多数の家族が韓国を離れた。今後いつ、何が起きても驚かない。
2017年を振り返ってみよう。1月1日、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長が新年のあいさつで「米国本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験の準備が最終段階に入った」と発表(国営朝鮮中央テレビ元旦正午放送)。加えて「最強の敵(米国)も手出しできない東の軍事大国だ」と挑発まじりに自画自賛した。
すると、トランプ次期大統領(当時)が「北朝鮮はつい先ほど、米国の一部に到達できる核兵器の開発の最終段階に入っていると発表した。そうはならない!」とツイート投稿。そこで北朝鮮は1月8日、ICBMを「任意の時刻と場所で発射する」と表明。同年2月12日の「戦略弾道ミサイル」発射に始まり、北朝鮮は新型弾道ミサイルを次々と発射。上記7月4日のICBM発射に加え、7月28日にも同じ「火星14」を発射。11月29日には、米本土東海岸を射程に収めるICBM「火星15」を発射した。その際「金正恩委員長は、新型の大陸間弾道ロケット『火星15』型の成功裏の発射を見守りながら、今日、ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと誇り高く宣布した」(北政府声明)という(声明の翻訳は月刊「Hanada」2018年2月号掲載の西岡力論文に依拠。日本のマスコミは「核武力」と訳したが、「核戦力」のほうが軍事用語としても適切なので)。
まさに「売り言葉に買い言葉」のような展開である。やはり『安全保障は感情で動く』。
2018年はどうなるか。1月1日、キム委員長が何を語るか。まず、そこに注目したい。1月18日は、そのキム委員長の誕生日。翌2月には平昌オリンピックが、翌3月にはパラリンピックが開催される。その間も、米韓合同の野外戦術機動演習「フォールイーグル」と、指揮所訓練「キー・リゾルブ」が実施される。
こうした日程をにらみ、韓国のムン・ジェイン大統領は「五輪・パラリンピック期間中の米韓合同軍事演習の延期を米国に提案し、米国側も検討している」と語った(米NBCテレビ2017年12月19日放映インタビュー)。
なんとも困った隣国である。合同軍事演習の延期や中止は北朝鮮や中国が主張し続けてきたことではないか。もし演習を延期すれば、北朝鮮は「米国が譲歩した」と受け止める。そうした悪しき前例をつくるべきでない。米韓は予定どおり粛々と演習すべきである。
今後アメリカはどう出るか。その行方を占う上で、2017年12月12日の米ティラーソン国務長官発言を検証したい。日本のマスコミは「ティラーソン国務長官は今月12日、北朝鮮と前提条件なしで対話に入ることも可能だという考えを示しました」(NHK)と報じたが、これもフェイクニュースの類である。正確には以下の発言があった。
When do the talks begin? We’ve said from the diplomatic side we’re ready to talk anytime North Korea would like to talk, and we’re ready to have the first meeting without precondition. Let’s just meet and let’s – we can talk about the weather if you want.
(https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/12/276570.htm)
上記のとおり「前提条件なし」(without precondition)での対話は最初だけ(the first meeting)。しかも米軍が38度線を越えて北上するシナリオを具体的にこう語った。
We have had conversations that if something happened and we had to go across a line, we have given the Chinese assurances we would go back and retreat back to the south of the 38th parallel when whatever the conditions that caused that to happen. That is our commitment we made to them.
ご覧のとおり、もし米軍が38度線を越えても(けっして駐留せず)南に撤退する(から安心しろ、黙認しろ)と中国に明言し約束している。12月5日の米国務省アダムズ報道官発言にも注目したい。米国営VOA放送の記者から「北朝鮮による米本土を攻撃する能力を阻止するために、最終的な手段として先制攻撃する可能性はあるか」と聞かれ、こう答えた。「米国は通常兵器と核兵器のありとあらゆる能力を動員し、同盟国である韓国と日本を防衛するとの約束を完全に履行する」。要は「先制核攻撃も辞さず」と明言したわけである(詳しくは鈴置高史・日経編集委員コラム「『北に核攻撃も辞さず』と言明した米国務省」)。米国務省を(圧力政策に反対し対話を求める)ハト派のごとく報じるのは妥当でない。
2018年、朝鮮半島の危機は最大限まで高まる。そう私は予測する。他方、安倍政権に近い著名な外務省OBや自衛隊の元将官らまでが「そうはならない」と「ダチョウの平和」を合唱している。失礼ながら、みな予測を外し続けてきたが、私は当ててきた。「虎の威」として、香田洋二(元海将)著『北朝鮮がアメリカと戦争する日』(幻冬舎新書・2017年12月刊)を借りよう。
「冷静な現状判断からは、『戦争にならない』という結論を導くほうが難しい」、「目前の一時的な平和を追い求めて、未来に目を閉ざすとき、その先に待つのは、より大きな戦争の悲劇か、あるいは永遠の恐怖」である。
その通りではないだろうか。残念ながら「明けまして、おめでとうございます」とはなるまい。