日韓国交50年、でも「何もしない」が良策 --- 井本 省吾

アゴラ

日本のマスコミには、中国や韓国と緊張関係が続くことが大きな国益の損失と見る空気が強く、事あるごとに「対話し、相手の要求を良く聞き、譲歩できることは譲歩し、冷却した関係を建て直し、友好関係を強めるべきだ」という論調を出してくる。

緊張関係が高まって、キナ臭い事態に発展すると危惧しているのだろう。


ケンカを続けていて良いとは言わない。しかし、理不尽な要求には「ノー」を突きつけるべきである。それでいて、緊張や摩擦をこれ以上高めないようにする。それが外交であり、メディアの役割でもある。

例えば、今年は日韓国交正常化50年なのに、韓国との冷却関係が続いて、決まっている記念事業は皆無に等しい。何とかすべきだ、と日本政府の働きかけを促す論調が強い。

日本経済新聞は1月11日付けの「地球回覧」で、ソウル駐在の内山清行記者が「日韓、試練の国交50年/条約見直し論 防げるか」という論説を載せている。

バランスのとれた論理展開で、概ね賛成なのだが、最後のくだりに疑問がある。

<日本側が(従軍慰安婦問題について──引用者注、以下同じ)ゼロ回答で政治的な妥協は生まれない。慰安婦問題で旧日本軍の関与をみとめ謝罪した「河野談話」の継承や、戦後70年の節目にだす「安倍談話」の内容に疑念がわくようでは、隣国と信頼関係をつくるのは難しい>

<国交正常化時に締結した日韓基本条約や請求権協定にも「条約管理」という発想があっていい。相手の解釈に不満があっても、結んでよかったと互いに思える形にする努力が必要だ。韓国内には、日韓国交50年を期に「基本条約見直し論」がくすぶっている>
 
はっきり書いてはいないが、結局は「日本側が何らかの譲歩をした方がいい」ということだ。

内山記者はこのくだりの前の文章で次のように指摘している。

<謝罪の表現をどう工夫しても(韓国内で)「法的責任を認めないのはごまかしだ」と反発が広がる可能性はある。そうなれば、国民の募金を原資に「償い金」を支給したアジア女性基金が批判された図式と同じになる>

その通りである。何度謝罪しても「謝罪の仕方が悪い」と蒸し返し、さらに強い要求を出して来るのが韓国である。過去の歴史がそれを示している。

内山記者は、その点をよくわかっており、次のように突き放した見方をしている。

<朴政権に支援団体や国内世論を説得する覚悟があるだろうか。それができないなら、方法は2つしかない。一つは、請求権協定に定める「仲裁委員会」を設置して、元慰安婦に賠償請求する権利があるのかどうか国際法上、はっきりさせる方法だ。もう一つは、しばらく、お互いなにもしないことである>

これまたその通りである。だから、ここで文章を打ち切りにすればよいのに、冒頭のように、韓国との信頼関係を築くのに(内山氏はそう書いてはいないが日本側が何らかの)「譲歩」をすべきだと書いてしまう。

内山記者の前のくだりのように「しばらく、何もしない」のが次善の策、いや今の段階では最善の策だろう。

それで日韓の経済関係にほとんど支障はない。現に起こっていない。韓国との文化交流、人の往来が多少減少しているが、それで両国が困ったということにはなっていない。

韓国が日本との関係悪化も手伝って中国ての関係を太くしている。それが日本にとっての脅威となり、アジアでの存在感を維持のため米国にとっても困るという地政学的な問題はある。

米国が盛んに日本に韓国との関係改善を求めるのも、そのためだ。日本政府が韓国に接近するかなりの理由は米国による要請と思われる。

だが、民主主義国の韓国が本気で中国圏に入り、かつての朝貢国家のようになることを望んでいるとは思えない。日本が「何もしない」外交政策を取り続ければ、困るのは韓国である。

「韓国内には、日韓国交50年を期に『基本条約見直し論』がくすぶっている」というが、本当に基本条約を見直し、あるいは破棄したら、韓国は間違いなく国際的な批判を浴び、まともな条約を交わせる国家としては見做されなくなるだろう。

現在の韓国の安全保障にとって、日米同盟を機軸にした日本が緊密な形で隣国にいることが極めて重要だということも韓国の保守派は良くわかっているだろう。

その保守勢力が大きくなり、バランスのとれた外交ができるまで日本側は腰をすえて待つ。それに越したことはない。「韓国に対する外交のドアはつねに開けてある」(安部首相)という態度を堅持したままで。

日経を含む日本の大手メディアも、そのスタンスでいくべきである。緊張関係があるからと言って、安易に仲直り策や譲歩を唱えるべきではない。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。