アメリカの対キューバ政策の向こう側 --- 岡本 裕明

アゴラ

アメリカがキューバとの国交回復の準備を着々と進めています。キューバは政治犯53人の釈放を完了し、国交回復の条件を一つ満たしたことになります。アメリカもキューバへの渡航を認めます。アメリカ共和党の一部には反対の声もありますが、これは平和的関係を築くという前向きの発想ですのでキューバとの歴史的断絶が終焉する可能性は高いとみています。


なぜ、今か、といえばオバマ大統領にとって歴史に名前を残すにはもっともふさわしい「プロジェクト」であるからでしょう。特に議会が上院下院とも共和党に過半数を取られ、レームダックとなった大統領に経済や国内問題の主導権を取ることは非常に難しいとされています。つまり、外交に向かうのは常套手段であるとも言えるのです。

キューバの人口は1100万人規模。ここに国交回復後、アメリカ資本が大挙して入り込めばアメリカの資本家としては面白い取り組みになるでしょう。一方でキューバの国内事情を考えれば資本の力で急速に国が変化することは社会や教育の面で歪みが出やすいのも事実です。このあたりはうまく調整する機能を持ってもらいたいものです。

さて、私がキューバの向こうに見えるもの、と考えるのはズバリ、ベネズエラであります。南米の一番北の端に位置するこの国は石油が出ることで一時期は繁栄しました。私にとって80年代に覗いてみたい国の一つだったのですが、結局、社有機の給油で一度だけ着陸した以外、その街に足を踏み入れることはありませんでした。

石油が生み出した腐敗、そして1992年にカリスマ性を持ったチャベス氏が大統領に就任してからはいよいよ反米色が強まります。が、そのチャベス氏も2013年に病死し、チャベス氏の意思通り、マドゥロ氏が大統領になったものの原油安により国家破綻に一番近い国とされています。マドゥロ大統領がチャベス氏ほどの強烈な個性がないこともあり、この反米色の強い国をアメリカ色に変えるチャンスが到来したとも言えるのです。

ベネズエラはキューバやボリビア、エクアドル、ニカラグアと共に反米色を掲げて先導的国家でありましたがアメリカと地理的に最も近いキューバがアメリカとの国交回復となればベネズエラが選択する道は極めて限られるかもしれません。ましてや石油価格の暴落で瀕死の重傷とも言える同国を救えるのはやはりアメリカの資本しかないように思えます。もちろん、中国の資金援助やプーチン大統領のこれみよがしのベネズエラへの接近は明らかにアメリカを意識したものです。同国への急速な資本投入は国民感情の不安定感をつくりだすため、アメリカとしてはキューバをアメリカ色に染めてからじっくり攻めるべきでありましょう。

そうなれば最終的にロシアのアメリカ大陸における影響力は軽微になり、アメリカとしては大陸のブロック化を完成させることができます。これはアメリカ経済の目がアジアから中南米に向かうベクトルを作ることにもなるでしょう。そのあたりのアメリカの長期的政策がどうなるのかは一応、気に留めておいた方がよさそうです。

私が思うにアメリカはアジアの時代の到来にもかかわらず、アジアでのアメリカの影響力を十分に示すことができなかったように思えます。それは文化、社会、そして宗教観の圧倒的違いがあったと思います。特に中国との位置関係においてアメリカは結局、優位な立場を築ききれていません。もうそろそろと言われているTPPもいったいいつになったら完結するのか、分かりません。そう考えればアメリカが南方政策を強化するとしたらほぼ独占状態で影響力を与えることができるわけでやりやすいことになる気はします。もっともこれも10年、20年のスパンで見ていかねば分かりませんが。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。