障害児支援を行なっている、NPOフローレンスの駒崎です。
先の1月26日、小池都知事が2018年度の東京都予算を発表しました。
そこに、長年課題であった医療的ケア児のスクールバス問題に、大きな一歩を踏み出した予算項目が掲載されていたのでした。
医療的ケア児とは?
医療的ケア児(略称:医ケア児)は、人工呼吸器等の医療的デバイスと共に生きる障害児。医療の発達のお陰で、以前は出産とともに亡くなってしまっていた子どもたちも、助かることができるように。
けれど、医療的デバイスを付けて生きる彼らを、受け入れてくれる保育園や幼稚園はほとんどなく、医療的ケア児の子育ては非常に負担が大きいのです。
(一部、我々フローレンスが行う障害児保育園ヘレンや障害児訪問保育アニー、また世田谷区の公立幼稚園、東大和市の訪問保育等、都内でもごく一部の園やサービスがあるだけという状況)
スクールバスから排除
保育園や幼稚園は行けず、ようやく特別支援学校に行けると思ったら、「スクールバスに看護師がいないから、乗れません」と断られます。
よって親御さん(母親がほとんど)は、車を運転し、運転しながら信号待ちの時に痰の吸引をしたりして、大変な思いをして送っていきます。
しかし、特別支援学校では「看護師が足りないから、お母さん、教室で待機していてください」と言われて、ずっと付き添いを要請されます。
看護師がいる場合でも、なぜか学校側のルール(と看護師側の責任を取ることへの恐れ等)で「看護師がいるけど医ケアはできません。お母さんずっと付いていてください」と言われます。
結局母親は働けず、プライベートな時間も持ちづらく、健常児家庭では考えられないくらいの負担を負わされるのです。
これまでの動き
こうした状況について、民間からは医療的ケア児家庭や事業者で構成される全国医療的ケア児者支援協議会が声をあげてきました。
具体的には、訪問看護師がスクールバスや学校に付き添えるようにしてほしいと記者会見をしたり、国家戦略特区に申請を出したり、また都議会議員の方々に現状を説明し、都庁に質問をぶつけてもらってきました。
しかし、なかなか東京都は動きませんでした。音喜多都議の質問に対しても、ゼロ回答が続いてきました。また、公明党の議員の方々も質問をしてくれていましたが、やはり芳しい回答は返ってきていませんでした。
けれど昨年の12月上旬に、公明党の代表質問に対し、教育長は前向きな答弁を行い、変化の予兆が見えたのでした。
医ケア児専用スクールバスの予算化
今回の予算において示されたのは、医ケア児専用の看護師等が常駐したスクールバスを走らせることです。
驚くべきことに、東京都の肢体不自由特別支援学校が18校あるのですが、その全てでこの専用バスが導入される予算がついたことです。
当初は3~4校で、モデル的に小規模にやってみて、ということが水面下では話されていました。
しかし、公明党都議らが知事に繰り返し要望していったことにより、初年度から全校導入になったのでした。
これによって、「スクールバスお断り」状態だった医療的ケア児の状況は、改善に向けて大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
今後のタイムライン
4月に事業がスタートするので、そこから各肢体不自由特別支援学校で、どの程度の家庭が専用バスに乗りたいか、ニーズ調査が行われるでしょう。
それに基づき、専用バスに乗れる子どもの基準が作られていくでしょう。また、同時並行的に、移送を委託する事業者の公募と、同乗する看護師の採用も行われていくでしょう。
このようなプロセスを経て、実際にバスに乗れていくのは、来年もしくは来年度から、ということになろうかと思います。
課題
大きな一歩ではありますが、課題がないわけではありません。まず、専用バスには定員があるので、医療的ケア児の家庭全てを対象にすることはできないだろうことです。
そして、本当にちゃんと看護師が採用できるのか、というところも不安があります。
また、今回の措置は東京都の動きですので、例えば新宿区が運営する区立養護学校には適用されません。
都の動きに区が追随してくれるかどうか。基礎自治体の意識と姿勢が試されます。
さらに、東京都以外の地方自治体においても、「医ケア児はスクールバスお断り」状態はあるので、東京都に続いて、同様の課題を抱える他の自治体にも、この動きが広がっていかねばなりません。
さらに、通学の壁が乗り越えられたとしても、今度は「親が教室でずっと一緒にいないといけない」(=親は仕事を辞めないといけない)という「待機保護者問題」は、いまだに解決していません。
親ではなく、なじみの訪問看護師が学校に訪問できるように、学校が訪問看護ステーションに委託できるように予算をつけていかねばならないでしょう。
一つ一つ、不条理を乗り越えるために。医ケア児の保護者達は地域で連帯し、声をあげ続けなくてはならないでしょう。また、福祉関係者も、医ケア児問題について、粘り強く関心の薄い自治体に説明し続けなくてはなりません。
社会課題を解決する魔法は、残念ながらありません。こうした小さな勝利のレンガを少しずつ泥道に埋め込んでいって、いつか多くの人たちが意識もせずに快適に歩ける街路を造っていくしかないのです。
尽力くださった都議会公明党や東京都教育委員会、関係部署の皆さんに、心より感謝申し上げます。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年1月29日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。