近代オリンピックの創設者ピエール・ド・グーベルタン男爵の五輪精神を思い出すまでもなく、オリンピックは「参加に意義がある」とすれば、勝敗にこだわり過ぎることは邪道だが、スポーツの世界で勝ち負けを無視することはできない。国別金メダル、銀メダル、銅メダルの獲得数リストがスポーツ欄で大きく報道される。スポーツ選手は単に参加するだけではなく、勝ちたいし、そのために日々練習を重ねてきたはずだ。
勝敗にこだわる観点からいえば、平昌冬季五輪大会で「五輪史初めて南北合同チームが結成された」と喜ぶ南北政治家やスポーツ官僚はスポーツの勝負の世界を無視していると批判されても仕方がないだろう。もちろん、南北合同チームが結成され、大会で健闘し、勝利でもすれば一大ドラマだが、現実のスポーツ界では簡単にはドラマは生まれない。
アイスホッケー女子南北合同チーム結成は選手たちのスポーツ精神、勝ちたいという意欲を減退させただろう。特に、アイスホッケーといった集団スポーツではチームワークが要だ。大会数週間前の即製チームでは勝てるはずがない。
先ず、アイスホッケー女子(全8チーム、AとBグループに分かれて行われる)の南北合同チームのリーグB予備戦の3回の試合結果を振り返ってみる。
第1試合、南北合同チーム対スイス戦 0対8で大敗
第2試合、南北合同チーム対スウェ―デン戦 0対8で大敗
第3試合、南北合同チーム対日本戦 1対4で敗北
南北合同チームは3戦3敗(1得点、20失点)でグループ戦を通過できず敗退。日本と南北合同チームは5位―8位決定予備戦に。
韓国中央日報は13日、第1戦と第2戦の結果について、「世界トップレベルチームとの格差は大きかった。第1戦でランキング6位のスイスに0-8で完敗した合同チームは、第2戦でランキング5位のスウェーデンにも屈辱的な敗戦を喫した。2試合で16失点。得点はゼロだ」と書いている。
南北合同チームの敗北は予想されたことだが、チーム結成当初の熱気ムードから考えれば、やはり失望は禁じ得ない。中央日報は13日、南北合同チームの試合を「無気力な試合」と表現しているほどだ。
南北政治家、スポーツ官僚たちの熱意に反して、肝心の選手たち(特に、韓国チーム)にはその熱気が伝わらなかったのだろう。それとも、勝敗にこだわる本来のスポーツ精神を無視したスポーツ官僚、ひいては政治家たちに対し、選手たちの無言の反発心があったのかもしれない。
詳細な分析は関係者に委ねるとして、3試合のグループ戦の結果は悲惨だった。スタンドには北から派遣された「美女応援団」が応援したが、選手たちは最後まで応援団の音頭に合わせて踊ることはなかった。
文在寅大統領と共に南北合同チームの結成を平和のアピールとして宣伝してきたトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長は初戦の敗北後、「元気を出しなさい。あなた方が南北合同チームで戦うこと自体が凄い成果だ」と慰めた。バッハ会長がここでいう「凄い成果」とは、「スポーツの舞台」ではなく、「政治の世界」の成果を意味することは明らかだ。
ちなみに、14日午後、関東ホッケーセンターで行われる第3戦の対日本戦を前に、中央日報記者は、「南北合同チームにはきっかけが必要だ。反転がなければ日本(愛称スマイルジャパン)に五輪初勝利という栄光を与えるしかない。日本戦という特殊性に期待できる。日本と対戦する韓国は説明できない大きな力を発揮してきた。闘志と闘魂も倍になる」と書いていた。興味深いコメントだ。南北合同チームに反日精神でハイとなることを求めているわけだ(結果は、反日精神も実力差の前にはどうしょうもなかった)。
アイスホッケー女子の南北合同チームの結成は政治家好みの平和パフォーマンスだった。そして第3戦の対日本戦では「反日精神を原動力に大きな力を発揮せよ」と煽る中央日報記者のコメントもスポーツ精神とはかけ離れたものだった。
「平昌五輪」は「平壌五輪」と呼ばれるほど、金正恩労働党委員長の対話戦略に文在寅大統領だけではなく、IOCのバッハ会長まで完全に踊らされてしまっているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。