正反合の世界を作る

北尾 吉孝

エルピーダ経営破綻」時に社長を務められていた坂本幸雄さんのインタビュー記事、「会社を改革したいのならまず上司と部下を入れ替えよ」(15年2月9日)が「WEDGE Infinity」に載っています。


その中で「外資で育った」坂本さんは、「上司と部下が入れ替わったら、人間はすごく緊張します。このたった一つのことができないで、どうして経営改革ができるのでしょうか。(中略)私の歴史は、常に上司が部下になることでした。辞めるときの自分の部下は、全員、自分の元上司です」云々と述べておられます。

之に関して私見を申し上げるならば、何も上司・部下といったフレームで固定的に考える必要性は全くないと思っています。もっと言えば、それまでの上下関係をひっくり返し、ぎくしゃくした中で一定の秩序が乱れて行っては、それこそ仕事など出来なくなってしまうのではないでしょうか。

従って、わざわざそんなことはせずに目的を果たすべく、私であれば課題毎にプロジェクトを作るという方法を検討します。現下の上下関係や部署間の勢力争いは一切関係なし、その人の年齢・組織・国籍等々全く関係なしといった中で、一つのプロジェクトとして誰が向いていて、誰がリーダーに相応しいかと考えるのです。

私自身、夫々の分野において色々なリーダーが夫々のタイミングで存在するものと考え、リーダーとは夫々のプロジェクトの中で決まって行くものだと認識しています。そのチームにあってその人の属性を問わず、そのプロジェクトに最適な人間を部や国を超えて様々集め多くの英知を結集し、所謂正反合の世界を作って行くのが在るべき姿だと思います。

より高い次元で正反合の「合」に達するためには、最初に打ち出す命題(正)は、明確な理念や考えを持った力強いものでなくてはなりません。そしてリーダーは、それとは反対・矛盾する反命題(反)に打ち当たる時、そこを乗り越えるということを繰り返している内に、次第に中庸(合)の域に達してくるのではないかと思います。

尤も言うまでもなく、勿論プロジェクトチームの類にあっても、仕事における上下の差はあります。下の者は上の者に対して礼を尽くし、敬意を払うことはチームを秩序立てるために必要です。それと同時に『論語』の中に「君(きみ)、臣を使うに礼を以てす」(八佾第三の十九)とあるように、また上の者も下の者を敬い出来得る限りその考えに耳を傾け愛情を持って導くという姿勢が大切です。

出光興産創業者・出光佐三さんの言葉の通り、一番大事な根本は人間尊重の姿勢であります。年齢や地位の違いに拘らず、御互い人間としては対等であるとの意識を有し、常に相手を尊重するという態度を取らねばならないということです。

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