天皇はジェンダーのない「記号」だった(アーカイブ記事)

皇位継承をめぐる支離滅裂な養子案は、日本の伝統を理解しない政治家が苦しまぎれにつくったものだが、日本の歴史や伝統を考え直すきっかけになる。男系の皇統が古来の伝統ではない何よりの証拠は、天照大神が女神であることだ。

天皇と日本人
山折哲雄
大和書房
★★★★☆

天皇は権威と権力を分離する記号

もちろん天照は神話上の人物だが、皇統が男系なら神話で男系の正統性を語るはずだ。ところが天照大神には性別の記述がなく、雄略・欽明・皇極・天智・天武・持統天皇についても日本書紀には性別の記述がない。このうち皇極・持統天皇は女帝と推定されているが、天智天皇が女帝ではないという証拠はないのだ。

これは『日本書紀』の時代には男系の皇統がなかったことを示す。天皇制の本質は精神的権威を国家権力から切り離して利用する(丸山眞男のいう)日本型デモクラシーだから、その「記号」にすぎない天皇は女性のほうがふさわしかったのだ。

継体天皇以降は世襲になったが、女帝もいた。それが例外なく男系だというのは、大正時代につくった皇統譜で男系男子の皇室典範に合わせたもので、実際には(天皇の健康上の問題などで)外部の男性が側室に子供を産ませた子もあった。「男系で世襲する」というルールはなかったのだ。

これは天皇が象徴になった現在も同じである。象徴天皇はシニフィアン(記号)だから、そのシニフィエ(意味)との関係は恣意的で、シニフィアンの物質的な属性には依存しない。たとえばこの記事を黒い文字で書いても赤い文字で書いても内容は変わらないのと同じく、天皇という記号が男か女かはその正統性とは無関係なのだ。

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