「北情報の90%はフェイクだ」

長谷川 良

スカンジナビア文学界の巨峰、スウェーデンの作家ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849~1912年)は「自分は神を探しに出かけたが、出会ったのは悪魔だけだった」と皮肉を込めて語ったが、われわれは事実を知ろうとサーチすると、フェイク・ニュースに出会う時代に生きているのかもしれない。

▲訪朝の成果をトランプ大統領に報告する鄭義溶韓国大統領府国家安保室長(2018年3月8日、ホワイトハウス、韓国大統領府公式サイトから)

▲訪朝の成果をトランプ大統領に報告する鄭義溶韓国大統領府国家安保室長(2018年3月8日、ホワイトハウス、韓国大統領府公式サイトから)

オーストリア通信(APA)の科学欄に興味深い記事が掲載されていた。450万のツイッターを分析した結果、「フェイク・ニュース(偽情報)は事実より迅速、かつ広く伝わっていくことが判明した」というのだ。以下、APAの記事を参考にしながら、読者と共に考えていきたい。

2013年4月15日午後2時50分、米国マサチューセッツ州のボストン・マラソンで、2つのリュックサックに隠されていた爆弾が続けざまに爆発し、3人が死亡、264人が負傷するという事件が発生した。同テロ事件は多くの人々に衝撃、困惑、怒りを与えた。同時に、数百万のツイッターが配信された。そのツイッターの約3分の1がフェイク情報だったというのだ。

ボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者は爆発テロ事件に関連して大量のフェイク情報が配信されたことに注目し、分析に乗り出した。MITのメディア・ラボはツイッターと連携して2006年以来の配信された記事を研究した。
ボストンのテロ事件、フランスの大統領選、ヒッグス粒子発見など12万6000のテーマを分析した。約300万人の利用者が450万以上のツイッターを配信した。そしてそれらのツイッターが事実かどうかのファクト・チェックのウェブサイト、例えば「スノープス」や「ポリティファクト」などを利用して調査したという。

大量のデータ分析の結果、フェイク情報は事実より多くの人々に届くことが明らかになった。専門的に正確な内容のツイッターは1000人以上の人に届くことは稀で、フェイク情報の受信者数の約1%に過ぎないというのだ。フェイク情報はツイッターの世界に深く入り込み、70%以上の確率でリツイートされる。

それではなぜフェイク情報が事実より席巻するのか。APAの記者は「事実よりフェイク・ニュースに大きなニュース価値が与えられるからだ」という。新しい情報を提供する発信者は社会的ステイタスを得る。そして「あなたはインサイダーだ」といった評価を得るわけだ。そのため、フェイク・ニュースを配信する人はその誘惑に負け、フェイク情報を量産するわけだ。

ドイツの著名な宗教哲学者ハンス・ヨアヒム・へ―ン氏は「自身がそうあってほしい、そう感じていることと一致するものを真実と受け取る傾向がでてきた」と指摘し、「Wahrheit der Stimmungen」(雰囲気やその場の空気が生み出す真理)と呼んでいる。すなわち、現代人は単なる事実より、自分好みの事実を探すわけだ。そこにフェイク・ニュースが生まれる土壌があるわけだ。

2000年前のイエスの降臨時代を思い出してみてほしい。救い主、キリストとして降臨したイエスに対し、ユダヤ人社会では当時、「異端者」、「悪魔の手先」というフェイク情報が流された。その結果、イエスは十字架上で亡くなった。フェイク情報は人類の救い主、キリストすら殺害できるわけだ。

最後に、“フェイク”でどうしても忘れることができないことがある。駐欧州の北朝鮮外交官と会見した時だ。彼は当方を見ながら、「君、わが国に関する情報の90%以上はフェイクだよ」と笑いながら語ったのだ。
南北首脳会談、その後の米朝首脳会談とビッグ会談が控えているが、この期間はフェイク情報のハイシーズンだ。例えば、「金正恩委員長はトランプ大統領に“非公開”の情報を託した」といった類のニュースがこれから流れてくるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。