教育における情報通信の活用についてシンガポール政府の説明は簡明である。シンガポールには天然資源がない。国家繁栄には唯一の資源である「人」を育てる教育が重要だ。現実空間とサイバー空間を区別しない子供たち生まれてきているのだから、それに合わせて教育も変革する。シンガポールは学生を中心に据えて、価値観を育てる教育に力を入れている。
米国の研究者も教員の役割が変わってきたと説明した。学生を一定の方向に、あらかじめ設定した回答が出せるよう指導するのではなく、自ら関心を持つことに積極的に取り組み、しかし、抑制すべきことは自ら抑制できる学生を育てる必要がある。この教育では失敗も許容され、学生同士が協力して前に進み、最後には反省の時間を持つことが推奨される。
VR・ARの研究者は、教育にこれらが活用できると実例を紹介したうえで、子供たちにVR・ARコンテンツを作り出す能力を育てるべきと主張した。このような能力は「技術の消費者」に過ぎない一般人を「技術の生産者」と変える可能性を広げるという。
多くの登壇者が阻害要因と指摘したのが、現職教員のmindset(習性となった考え方)である。「読み書きがすべての学習の基本」から「この教育方法で何年も優秀な子供たちを育ててきた」まで、いろいろなmindsetがある。教員のmindsetを変え、情報通信の利活用に動くように各国は工夫している。
シンガポールでは自ら手を挙げた教員に計算論的思考をはじめとする新しい考え方を訓練し、彼らを足掛かりとして他の教員にそれを広めていった。各学校一例でよいので情報通信を活用した教育計画を作り実行するように求め、その経験を広めていった。フィンランドEspoo市は市独自のカリキュラムを導入し、教育の重点を「何を学ぶ」から「どう学ぶ」かに変えた。教員には学生の学習プロセスを導き支援する役割を持たせ、教員同士で相互に協力できるようSNSなども活用した。インドネシアでも全国各地での実証実験の中で教員を訓練し、教員同士のコミュニティも作ったという。
一方、韓国では来年度からソフトウェア教育が小学校5年で必修になる。そこで、5年生の担任は若い教員に任せ、高齢の教員は低学年を受け持つように政府が指示したそうだ。この強権的な手法には衝撃を受けた。
先進的な教員が他の教員を教え、教員同士で助け合って教育力を強化していく他国の方法のほうが、わが国には好ましいだろう。
山田 肇
『ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修