世界では若者がシリアル離れなのに、日本ではなぜ人気?

黒坂 岳央

「世界の若者がシリアルを食べなくなった」という調査結果がイギリスの「Mintel」によって発表されました。同社の調査結果によると、2000年から現在までに世界ベースで見て売上高約120億ユーロ→約90億ユーロまで75%落ちており、その理由について「40%近くの若者が“シリアルを食べるのは煩わずらわしすぎる”考えていて、生活習慣の変化があったからでは」と分析しているようです。この分析をどう見るかはさておき、「朝食にシリアルを食べる若者が減少傾向にある」というデータがあるのは確かなようです。

さて、気になるのは世界的なシリアル離れに、日本人が含まれているのか?ということです。

日本では起きていないシリアル離れ

2018年2月24日時点で「若者のシリアル離れ」とGoogleで検索しても記事もデータも出てきません。そもそも日本人の朝食はパンとご飯を主食にしている人が圧倒的多数で、シリアル派はかなり少数のようです。

ソフトブレーン・フィールド社が発表した意識調査によると、朝食で食べる炭水化物はパンが52.8%、ご飯が35.3%、シリアルは6.1%となっており、シリアルで済ませている人は10人に1人もいません。「6%が増えた、減った」といっても多くの人たちはパンやご飯で朝食をとっているので、シリアル離れの話題に出てこない理由には「そもそも日本人は朝食にシリアルをあまり食べていないから」という事情があるのではないでしょうか。

世界的売上はここ数年で低迷している

今回の意識調査では日本人ではなく、世界の若者がシリアル離れを起こしているといいます。知らない人はいないケロッグ社を例にとってグローバルの売上高推移を見てみると次のようになっています。

ケロッグ社の売上高推移を見る限り、2013年にピークを迎えた後は少し低迷を続けているといいっていいでしょう。

爆発的伸びを見せるフルーツグラノーラ

朝食にシリアルを主食に食べている日本人は少ない、というデータがあるものの日本の人口は1億3000万人もいるわけですから、そもそも市場はでかいわけです(1億3000万人の6.1%は793万人!)。そんな「日本人のシリアル市場」を見てみると面白い事実が見えてきます。下記のグラフはコーンフレークと、グラノーラの売上数量を示したものです。途中からグラノーラの売上が爆発的な伸びを見せており、近年では完全にコーンフレークを超えていることが分かります。

 

コーンフレークは2012年までは一貫してグラノーラを上回っていました。それが2013年に初めて逆転に転じた後、2016年には5倍近くの差をつけているのです。このグラフを見る限りでは、市場を奪い合っているというより、小さかったシリアル市場をグラノーラが拡大させたことが分かります。グラノーラの成長率の凄さは様々なメディアで語られており、昨年には中国にも進出していることで大きな話題を呼んでいます。

フルグラ人気の理由は「ジャパナイゼーション」

破竹の勢いで売上を伸ばすカルビー社のフルーツグラノーラ(略してフルグラ)、これだけ支持されている理由は一体なんでしょうか?健康的なイメージ、牛乳やヨーグルトなしでも食べやすい、商品名に「フルーツ」と書いてあること、様々な人気の要素がありそうですが、調べていて一番納得できる理由は下記のものです。

「そもそもグラノーラは、食感がボソボソしているもの。当社では上市に当たり、食感を日本人向けにするかどうかで議論したと聞いています。最終的には日本人が好む味覚に合わせることにし、ザクザクとした食感になるように工夫しました」

引用元:DIME「カルビー『フルグラ』ヒットの理由」からマーケティング本部フルグラ部商品企画課 課長の網干弓子さん

私が一番腑に落ちたのはこの理由でした。ズバリ、日本人好みのシリアルということです。一時期、私は健康目的でミューズリーというシリアルを食べていました。砂糖不使用でナッツやタネ、ドライフルーツなどが入っているヨーロッパを中心に支持されているものです。日本人で常食している人は多くないと思いますが、本気で健康志向を目指す人がたどり着く本当に健康的なシリアルです。

このミューズリー、食べたことがある人はわかると思うのですがとにかく食べづらいのです。私はヨーグルトをかけ、ドライフルーツを足し、カットバナナを入れるなど工夫していましたが、それでも口の中はボソボソして、一口ごとに凄まじい勢いで口内の水分が奪われるのを感じます。水分なしで食べるのはほとんど無理で、「完全砂糖不使用なんて健康的じゃないか!」と飛びついたものの、多くの脱落者を出してきたことは想像に難くありません。

とても食べにくいミューズリーに比べて、フルグラは本当に食べやすいと感じます。サクサクとした食感は「健康感全開」というより、どちらかといえば健康的なお菓子を食べているような感覚です。フルグラが食べやすいのは砂糖が使われているから、という理由もあります。

フルグラを販売するカルビー社のFAQによると、フルグラには上白糖が小さじ2杯分(1食50g辺り)使用されているようです。また、100%完全食品ではなく、あくまで忙しい朝にサッとおいしく食べられるもので、フルグラだけではタンパク質が不足してしまうので「あくまでパンや白米のような主食として捉えて、野菜やフルーツなども一緒にお召し上がりください」とあります。ですので、フルグラ単色で完全なる健康食を目指すことは出来ません。しかし、主食として手軽においしく食べられる選択肢としてはとても魅力的です。カルビー社が「日本人が食べやすくなるように」と作ったものですから当然でしょう。忙しい日本人の朝をこれだけ食べやすいシリアルを提供したのですから、支持されるのも頷ける話です。

世界全体ではシリアル離れと言われましたが、結論的にはどうやら日本人には当てはまらないようです。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。