憲法記念日を前に「中身としての民主主義」を考えよう --- 高橋 大輔

尾崎行雄の三女・相馬雪香さん(高橋氏提供)

日本国憲法が昭和22年(1947年)に制定され、今年で71年になります。
古希を乗り越え、つぎは喜寿。わが国の憲法はすっかりご長寿となりました。

毎年5月3日、憲法記念日には改憲や護憲、それぞれの意義が問われますが、憲法とあわせて考えたいのが「民主主義」です。つい先日ですが、希望の党と民進党が合流する際の新たな党名として国民民主党が発表されました。
党名に民主の二文字を掲げるのは自由民主党はじめ社会民主党、昨年は立憲民主党が誕生しました。
そして今回の国民民主党、右も左もないのが民主主義の現状です。

党名に用いずとも、日本を掲げる維新の会やこころ、公明党に自由党、更には日本共産党も綱領や結党の理念などにおいて民主主義そのものは否定していません。さらに付け加えるならば、昨今のアジア情勢に緊張をもたらしている隣国・北朝鮮の正式な国名は朝鮮民主主義人民共和国です。

ここまで濫用されると、もはや民主主義という言葉自体が政党のカラーやイデオロギーを打ち出すものではなくなった感じがします。だからこそ、同じ包み紙に惑わされず「中身としての民主主義」を改めて考える必要があります。

憲政の父と呼ばれた尾崎行雄の三女・相馬雪香さん。
彼女は政治家ではありませんが、父の影響をうけて「民主主義とは何か」を常に問い続けてきました。

その言葉をまとめた書籍「平和活動家 相馬雪香さんの50の言葉(石田尊昭著、世論時報社刊)」には、私たち一人ひとりが民主主義の本質を考える際のヒントになる言葉が込められています。その中から、皆さんに伝えたい幾つかを紹介いたします。

「民主主義は種蒔き。種を蒔いて水をやる。でも、すぐには芽なんか出ないし、花を咲かせるわけじゃない。
じっくり、何度も何度も水をやって、世話をして。それをやり続けないと、すぐ枯れちゃう。
民主主義って、世話を怠るとあっという間に萎んじゃうからね。だから、芽が出て、花が咲いて、大地に根が張り巡らされるまでずっとずっと続けていかなきゃいけないのよ。」

「このままでいいなんて、誰も思っていないはずです。でも、変えようとしない。
民主主義ってのは、自分たちが変わろう、変えようと思った時に、それができる社会なんですから。
それを大いに生かすべきです。
日本人ってのは、変化を好まないっていうか、恐れるようなところがあるわよね。でも変化のないところに進化はないですよ。」

「民主主義ってのは、私たち一人ひとりが大切ってことでしょ?
一人ひとりが尊重されると同時に、その一人ひとりがこの社会に当事者として責任を持つ。
そして自ら政治や社会に参加していくこと。
他人任せ、お上任せにしちゃいけない。それが民主主義でしょ?」

「戦後の教育が間違ってたとか、行き過ぎた民主教育で自分勝手な子どもや若者が増えたって言われるけど、冗談じゃないよって言いたい。
行き過ぎた民主教育?私に言わせれば、戦後教育の一番の過ちは、民主主義を掲げながらも本当の民主教育、市民教育が行われなかったってことですよ。」

民主主義は、なにも学者や専門家だけのものではありません。平易な言葉でも、しっかりと考えられればいい。
今年で没後10年になる相馬さんのメッセージはそう教えてくれます。

政党の数だけ、更には人の数だけ民主主義があるとも言えましょう。

あなたが支持する民主主義は、果たして種を蒔いて水をやり、世話をし続けているでしょうか。

変化に向き合おうとしているでしょうか。

当事者として責任を持っているでしょうか。
本当の民主教育と本当の市民教育に取り組んでいるでしょうか。

どこかの誰かのことでなく、わが事として民主主義の中身とじっくり向き合いたい。
憲法記念日は、そんな祝日であればと思います。

高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト