中国軍は弱い --- 井本 省吾

軍学者、兵頭二十八氏の著書「こんなに弱い中国人民解放軍」(講談社+α新書)が面白い。


現場の自衛隊員で、中共軍を恐れる者は皆無だという。兵頭氏によると、中国軍にはロクな兵器が存在しないからだ。米軍兵器に劣るロシアの兵器体系を採用しているうえ、ロシア軍と違って改良、改善を怠り、自力の兵器開発は低レベルだ。米国の専門家は米軍の最新鋭機であるF22なら1機で中国戦闘機「殲10」「同11」を50機すべて撃ち落とせると主張する。

精密なレーダー網ができていないから、核兵器も使うことができない。

兵器体系が脆弱なのに加え、中国軍は末端の兵士に戦う気がまるでなく、少しでも危ないと見れば、すぐに逃げ出す兵士が大半だという。政府の長期存続を信じず、カネで簡単に動き、平気で国を捨てる。技術者も同じだ。

だから、幾世代も超えて、技術者が経験とノウハウを蓄積しなければならない最先端のエンジン工学のような分野で、シナ企業は、世界に何の貢献もできないのである。企業や市場の長期存続も、彼らは信じていない

実戦が始まれば、中国軍の弱いことはすぐに証明されるのだが、彼らはボロを出さないように、強そうな相手とは本格的に戦おうとはしない。攻めるのはフィリピンやベトナム、インドネシアなど勝てそうな相手ばかりだ。

「我々は強い。言うことを聞かないととんでもない目にあうぞ」と脅し、すかし、心理的に相手を追い詰める。そうした情報宣伝戦、心理戦にたけている。兵頭氏は「なぜ、彼らは宣伝に強いのだろうか?」と自問して、次のように回答する。

それは、彼らシナ人の人生が宣伝そのものだからである。宣伝・即・政治であり、また人生なのだ

だから、歴史的な真実などどうでも良く、政治外交的な勝利のためにはウソも誇張も事実の歪曲もためらうことなく展開する。

これにひっかかる日本人が多く、とりわけ外務省の対応がひどいと、兵頭氏は繰り返し批判している。

実は、米国の政府高官や専門家が、劣弱な中国軍が実態を正直に語らないことが、事を厄介にしている。

米国は軍需産業を繁栄させるのに中国は強大だというイメージを広げる必要がある。中国が長期にわたって軍事予算を大幅に拡大し、核兵器やミサイル、航空母艦を多数整備していると、大げさに訴えると、米国の国防予算は維持拡大され、産軍複合体の形成にとって好ましい。

それでなくとも、平時から大げさに言っていた方が、万一中国との戦闘が始まった際も責任を取らされなくて済むという真理が働きがちだ。朝鮮戦争やベトナム戦争で、北朝鮮やベトナムを支え、時に直接米軍に立ち向かったのは中国であり、朝鮮では米国は勝てず、ベトナムでは撤退を強いられた。

そのトラウマも「中国を侮れない」という「幻想」を膨らませている。これに中国が米国債を大量に保有し、相互の貿易交流も多いという経済的な事情がからむ。

日本の外務省は外交も情報もすべて米国任せだから、米国が中国の脅威を唱えれば、まともに受け取り、「中国を怒らせてはならない。友好第一」となる。

そうした環境のもとで、日本のメディアも中国の情報工作に乗っかり、沖縄の政界やマスコミなどは中国の言いなりになっている感がある。

効果的な宣伝戦を展開し、居丈高に振舞う中国を前にして、外務省もマスコミも恐れ、恭順の姿勢をとってしまう。戦う前に負けている。まさに中国の思うツボである。

日本は少子高齢化が進み、経済大国と言われた盛りの時期は過ぎつつある。今後衰退しないまでも経済成長は容易ではない。そういう事情もあって、負け犬意識に染まっている国民も少なくない。「命あってのものだね」という態度だ。

では、どうすればいいのか。兵頭著の結びの文章は示唆に富む。

日本は年老いた剣豪である。……限られた体力でどう対処すればいいのか?
昔の剣豪はこう覚悟したという。……相手が戦争したいというのなら、相手がしたいような攻撃をさせよう。それに応じて勝つ一手あるのみである、と

中共軍は戦えば弱い。今の日本に必要なのは、この、昔の老剣士「何でも来い」という姿勢だけである。逃げようとすれば、彼らの反近代的なルールが勝利を収めるだろう。逃げずに受けて立てば、それだけで中共体制は亡び、アジアと全世界は古代的専制の恐怖から解放されよう

同感である。中国の不動産バブルの崩壊が目前に迫り、不吉な動乱の影がさす今、老剣士の心構えに学びたい。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年5月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。