米国では、4月を“ストレス意識向上月間”に設定しているとこちらでご説明しました。その翌月の5月については、日本では5月病が知られています。年度開始にあたって新社会人や学生が陥る心身の不調ですよね。
米国では、1949年から5月を“メンタルヘルス意識向上月間”と位置付けています。4月が初年度スタートから1ヵ月後ではないのに、なぜ5月に設定されているのでしょうか?ざっと調べたところ明確な回答は得られなかったため推測の域を出ませんが、April Showers May Flowersという言葉がある通り、天候に恵まれた時期が適当と判断されたのかもしれません。学生にしてみれば、学年度末や卒業式にあたる時期でもあり、精神的にリセットしやすいタイミングとも考えられます。精神病に学生なんて、と思われたあなた。高校生や大学生の間では、表面上は平静を装いつつ、うつや強迫観念など精神的苦痛を抱える”アヒル症候群”に陥る青少年も多いと言われています。
今年、米国精神疾患協会(NAMI)が“メンタルヘルス意識向上月間”に掲げたテーマは“CureStigma(治療の烙印)”。精神疾患の治療に対する罪悪感を取り除き、自覚を持って治療を促す狙いです。
最近では歌姫マライア・キャリーが双極性障害の患者だと告白し、精神疾患への意識向上に一石を投じました。普段スポットライトを浴びるセレブリティも無縁ではなく、その他にも精神不安について明かしたセレブは第一線で活躍し続けるビヨンセやアデルなどのアーティスト以外にも、モデルのケンダル・ジャクソン、俳優のライアン・レイノルズや元レスラーのドウェイン・ジョンソンなど、様々です。精神病は、誰にとっても起こり得る身近な問題なのですよ。数々の統計によれば、米国では以下の実態が浮かび上がります。
・5人に1人(4,380万人、18%)が何らかの精神疾患を抱えている
・成人のうち25人に1人(980万人、4%)が生活に支障をきたす深刻な精神病患者
・13~18歳の青少年のうち5人に1人(21.4%)、8~15歳の子供のうち13%が深刻な精神疾患に直面
・成人の1.1%が統合失調症、成人の2.6%が双極性障害、6.9%が深刻なうつ病の患者
・成人の18.1%が心的外傷後ストレス障害(PSTD)、強迫性障害(OCD)、特定恐怖症など不安症を抱える
2016年時点で、米国では以下の状況。
精神疾患の治療にはセラピー、薬品投与、入院などが想定されますが、米医学界では日本人が目を丸くしてしまう手法を検討している方がいるんですね。サウスカロライナ・メディカル・ユニバーシティで精神分析医を務めるMichael C. Mithoefer氏は何と、MDMAなど幻覚をもたらす麻薬がPTSD患者に効果的と提唱しているのですよ。PTSD患者は、2~3回のMDMA投与でプラシーボを受けたというではありませんか。“毒を持って毒を制す”を地で行く展開ですが、サイケデリック過ぎて日本では考えられません。もちろん、MDMAは米司法省下の麻薬取締局が使用禁止に分類する“スケジュールI”指定されていますので、実用化への道は極めて険しいと言えるでしょう。
精神安定に麻薬が効果を発揮するとの話を聞いて個人的に思い出したのが、カリフォルニア州で合法化された娯楽目的のマリファナ使用です。筆者が同州サンフランシスコを訪れた時には、誰もが知っている大手IT企業に勤務するエンジニアから「勤務中にタブレットのマリファナを愛用する同僚がいるよ」と伺ったものですが、太平洋を超えるだけでこれだけ意識が違うものかと愕然としました……。
(カバー写真:Mark Turnauckas/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年5月29日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。