イタリアの政局の行方はECBのドラギ総裁にとっても懸念要因に

久保田 博幸

イタリアの政局が世界の金融市場に大きなリスク要因となってきている。イタリアの長期金利が3%台に上昇し、ギリシャを発端とした欧州の信用不安が再来かとの懸念も出てきた。ギリシャ・ショックの際にもユーロというシステムが崩壊するのではとの危惧が大きな不安要因となったが、今回も焦点となりそうなのはこれをきっかけにイタリアがユーロ離脱に向けて動いてくるのかどうかと言う点となる。格付け会社がこの動きを助長したところも、前回のユーロ危機を彷彿とさせた。

イタリアの五つ星運動は政権樹立の争点となっている経済相の人選でも妥協点を探っているとし、ユーロ懐疑派のサボナ氏擁立を断念する構えを示し、あらためて新政権樹立を模索する動きが出てきた。ロイターによると、「五つ星運動」と極右「同盟」は連立政権樹立で合意し、経済相のポストには経済学教授のジョバンニ・トリア氏を起用すると伝えられた。ジュセッペ・コンテ氏をが首相に再指名され、サボーナ氏は欧州担当相に就く見込みと伝えられた。

新政権樹立への動きから市場ではいったんリスク回避の動きを強めた。果たして連立政権はユーロ離脱に向けた動きを封印するのか、それともそれをいずれ前面に押し出してくるのか。これはある意味、イタリア国民の意向といったものも大きく反映してくるものと思われる。

今回のイタリア国債の価格の急落は、それを保有する欧州の銀行にも影響を与えることから、イタリア株は銀行株など主体に大きく下落した。イタリアの国債価格は戻してはいるが、この動きに気が気でないのがECBではなかろうか。

ECBの債券買入額は今年1月からこれまでの月600億ユーロから300億ユーロに減額した。債券買入は少なくとも今年9月末まで継続するとしている。ただし、必要に応じて9月以降も延長するとしている。そして、インフレ率の2%近辺という物価目標に向けた調整の進展を確認したところで買入は停止するとした。

このECBの正常化に向けたロードマックが今回のイタリアの政局によって修正される可能性もありうるか。イタリア国債価格の下落にブレーキが掛かれば問題はないが、今後もさらに下落し、イタリアの長期金利が上昇基調となれば、ECBの債券買入期間の延長なども考慮する必要がある。

イタリア大統領がユーロ懐疑派の財務相候補を忌避した裏にはイタリア出身のドラギECB総裁からの助言があったともされているが、金融政策の行方ばかりでなく、ユーロ崩壊へのリスクはECBとしても極力軽減させたいところであろう。

今回のイタリアの問題についてはイタリアの債務問題も絡んでいる。ユーロ圏にいる限り、財政赤字には制限が加わり、積極的な財政政策は取りづらい。その不満がポピュリズム(大衆迎合主義)政党の台頭を許し、政権を握ろうとしている。イタリアの問題はむしろこれから正念場を迎える可能性もあり、その動向次第では、ECBの金融政策ばかりでなく、ユーロというシステムそのものにも影響を与えかねないことも確かである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。