先般の記事に対して「国際標準化活動の進め方を教えてほしい」という意見をいただいた。
標準化活動は、企業が連合を組んで事実上の標準(デファクト)を目指すフォーラム活動と、公的活動に二分される。高齢者の自立生活支援は社会福祉政策に深く関係するため、公的標準化活動としてIECで実施されている。
使われない標準に価値はないから、標準を作成する前に想定利用者の利用シーンが分析される。自立生活支援サービスの場合、ベッドからの転落を検出して救出に駆け付ける、血圧や脈拍を常時モニターして異常時には病院につなぐといった利用シーンがある。
次に、サービスを実現するためのアーキテクチャを考える。多様な利用シーンに対応するために、転落センサーなどの「デバイス」、家庭内の多様な「デバイス」からの信号を集約する「ゲートウェイ」、「ゲートウェイ」からの信号で判断する「情報システム」というように抽象化して、それらのつなぎ方について一般形(アーキテクチャ)を決める。
自立生活支援では、家庭内に多様なデバイスを置くConnected Home Environmentについて、アーキテクチャに基づく具体的な標準化が始まるところである。例えば、デバイス番号の割り付け方法といった項目もあるし、デバイス同士のけんかを防ぐ機能安全の確保という項目もある。
標準が完成すると製品やサービスが市場に投入されるが、「標準に準拠している」ことはどうしたら確認できるのだろう。無線LANの場合には「WiFi」が準拠のサインになっているが、自立生活支援でも同様に適合性評価が課題になる。
自立生活支援サービスでは装着者の血圧や脈拍というように機微な個人情報が利用される。このためプライバシーから情報システムのセキュリティまでについて慎重な検討が必要になり、その過程では各国法制への理解も欠かせない。
利用シーン、アーキテクチャ、具体的標準化、適合性評価、各国法制といった多様な課題を取り上げるため、活動には時間がかかる。そこで課題ごとに責任者を決めて、そのリーダシップの下で動くようにしている。日本は、自立生活支援では出発点に位置付けられる利用シーンの収集と整理に責任を負っている。
公的標準化活動は各国が合意しないと前に進めないから、自国の事情だけ主張するのは適切ではない。各国と協力しながら、しかし、自国の事情を反映した国際標準を完成させる必要がある。中長期的には関連ビジネスで自国企業が主導権を握れるのが望ましい。それゆえ、国際標準化は、各国の利害が交錯し協調と競争が同時進行する国際政治のような活動である。今回のように全体会合を招聘するのも、各国との協調姿勢を表現する重要なアクションである。
山田 肇
『ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修