米朝首脳会談はキックオフ=開会宣言(ファンタジスタと本能の勝負師)

松川 るい

Caitlin Jones/flickr:編集部

みなさま、おはようございます。ただいま朝の6時半。今日は12日、歴史的な初の米朝首脳会談が開催される日です。本当は、夜(夜中)にゆっくり書こうと楽しみにしていたのですが、週末からの日程がきつ過ぎて朝までノンストップで寝てしまいました。よく眠ると気持ちがいいですね。

さて、今日の首脳会談は一体どうなるのか。どのような成果が期待できるのか。どういう意義があるのか。そして、この後の展開は。

まず、今回の首脳会談は元外交官の私の目からみてかなり異例なものです。普通、首脳会談というのは、事務方(外交当局)間で詰めた内容について、首脳会談において「done deal!」の封印をしてもらうというかお墨付きを与えて協議・交渉内容を確定してもらうというのが通常です。もちろん、最後の最後に残った難しい問題については白紙で、トップリーダーが首脳会談で決めてもらう、ということは割とあります。

他方、今回の首脳会談は、ざっくりいえば、①北朝鮮の核放棄と②体制保証(平和条約締結に至る道)の2つの間のディールなわけです。が、事務レベルでやるべき①と②の間のある程度詳細な工程表(双方がそれぞれいつまでに何をやるか、それぞれの行動は相手のどの行動がなされることを条件とするか)についての合意がほとんどなされておらず(おそらく時間が足りない)、首脳に最後の最後に決めてもらう部分が残っているというようなレベルではない、白紙が殆ど(または黒か白かグレーかよくわからない部分が殆ど)、という状況で行われる首脳会談ではないか、と。

前のブログに、最低限、終戦宣言を出すなら、北朝鮮のCVID核放棄のコミットメントとそのための即時の全面核査察受け入れの表明ぐらいは発表するのではないか、と書きました。これが今回の会談で発表されたら素晴らしい成果と言って良いでしょう。が、北が全面核査察をすぐに受け入れるつもりがあるのかどうか。しかも午前中で終わることを予定しているとか。12日までに事務方が相当詰めるべく頑張るんだろうと思っていましたが、どうも、余り内容が聞こえてこない。今回は、とりあえず首脳会談、というか「まず首脳会談からはじめよう」という(!)。

つまり、今回の首脳会談は、文字通り、両首脳がこれから始まる米朝プロセス(その他の関係国も巻き込んでいく)のキックオフ(開会宣言)をすることが目的の会談であり、何か具体的なことを合意する会談ではない可能性が高い。せいぜい合意するのは北の核廃棄のコミットメント(板門店宣言プラスアルファぐらい、たとえば、「北朝鮮はCVIDの核放棄を実現する」)と終戦宣言を発表するということかと。

もしそうだとすれば、終戦宣言してあげるのならもう少し北に譲歩させるよう頑張ればいいのにと思うわけです。が、トランプ大統領は、終戦宣言をして北朝鮮を安心させてやらないと今後の交渉は進まない、だから、まず終戦宣言を与えてやろう、それで、その後、北朝鮮が約束したとおり行動しないなら、いつでも終戦宣言も撤回すれば良いのだから、と思っているかもしれません。

金正恩は外交のファンタジスタですが、トランプ大統領は、金正恩が普通に見えるぐらい、(良くも悪くも)それを上回る大胆行動ができてしまう、本能の勝負師です。両首脳が膝を突き合わせて目と目を合わせて真剣に話し合う中で、相手の真剣度はお互い見抜きあうのではないでしょうか。(トランプ大統領は一分でわかるらしい。)

トランプ大統領は、金正恩が自分との会談の中で約束したことを実施してCVIDの核放棄をするなら、制裁解除から経済援助(他国にやらせるでしょうが)、平和協定締結に、ホワイトハウスからマルアラーゴに国賓招待してハンバーガーを共に食べるところまで全てofferする用意があるでしょう。一方、約束をたがえた場合には海上封鎖まで視野にいれた厳しい制裁を拡大することも考えているのかもしれません。(米朝首脳会談まできて対話による解決プロセスにモード変更した以上、軍事オプションは消えていると思う。)

一方、金正恩は本気で核放棄をする気があるのか。ずばり、私は、北朝鮮が狙っているのは、「イスラエルのような存在になること」だともいます。核保有が公式ではないが事実上認められていて、親米国であるという意味です。(ついでにいえば、技術的に優れていて経済的に発展している。)。事実上の核保有があれど米国にとっては脅威ではないし、「敵対さえしなければ」その他の国にとって脅威ではない。核放棄は相当程度する覚悟はあるでしょう。

4月末に北朝鮮の中央委員会において、核開発と経済発展の並進路線から経済重視の路線に変更する旨発表し、軍の強硬派の幹部3人を取り換えたりしています。ただ、前のブログにも書きましたが、核兵器は20発からあるので廃棄には非常に時間がかかり(15年という専門家も)、時間がかかる中で米朝プロセスを続けていれば、その中で、「核保有しながらも国際社会にとって危険な存在ではない北朝鮮」の姿を長期間プレゼンすることができる、そして、最後は、世界一穴掘りの名人の北朝鮮です、全部放棄したといっても、核技術と核兵器と核技術者を隠して保有することは物理的に可能であると思っているのではないでしょうか。イランの核合意の顛末をみても、北朝鮮が早期に全面核廃棄することは自己防衛のために極めてリスクが高いと思わざるを得ないでしょうし(イランも北朝鮮に米国を信じるなと警告しているようです)。

かなり前のブログで、北朝鮮は「中国みたいな国(独裁体制を維持しながら市場経済化して発展する)になりたいと考えている」のだと書きましたが、これは経済体制についてです。核兵器については、イスラエル化を狙っているのではないでしょうか。

いつのまにか7時半ですね。娘が起きてきたので、そろそろラップアップしなければ(朝ごはんを作らねば)。日本にとってはどうか。

中長期的見通しと日本が覚悟して準備すべきこと(在韓米軍の縮小撤退に備えて対馬防衛など)については4日のブログで書いたので端折ります。

まず、米朝プロセスによって北朝鮮の核の脅威がなくなることは、たとえ最終的に(ってこれが判明するのは数年後かもしれませんが)北朝鮮の核が「事実上」残ってしまう可能性があったとしても、いつどういうつもりで使うやらわからない危険な現状よりはましです。ただ、ここでのポイントは、「日本が敵対的存在にならないのであれば」という条件がつきます。

中長期的観点からいえば、「事実上」核保有したままの朝鮮半島国家連合体みたいなのが出現するとすれば、日本はどうすべきなのか。人口でいえば南北合わせれば、8000万、面積は日本の3分の2の存在です。とすれば、敵対的存在とならないように外交的努力をしなければならないでしょう。残念ながら、トランプ大統領ではありませんが、日本の置かれている地政学的位置は、6000マイル離れている米国とは違うのです。引っ越しできない以上、大きく力強くなる朝鮮半島国家群とは友好的関係(すくなくとも敵対的ではない関係)を作るべきです。

日本にとっては、朝鮮半島に米国が関与し続けること(できれば在韓米軍駐留ができるだけながく続くこと)が最も重要です。日本の外交はそこに注力すべきです(米軍駐留については私は長期的には悲観的ですけど)。したがって、今回、北朝鮮の問題を米国が主導して解決に乗り出していることは日本にとって極めて良いことなのです。放置すれば中国の影響下に入るに決まっている朝鮮半島です。

米朝プロセスが長く友好的に続けば、北朝鮮がイスラエルのようなとはいかないまでも(北朝鮮は中国とは他国とは比較にならない絆がありますから)、北朝鮮には親米国家になってもらうことが日本の国益です。ただ、親米国家であって反日国家である北朝鮮ということは十分あり得ることですから、そうならないように、今後の日朝プロセスにも期するところ大です。

以上考えると、日本はこの米朝プロセスが前向きに進展することを側面支援する、そして、中長期的観点からは、日中関係、日韓関係を改善することが大事です。

核ミサイル問題は米国が先頭に立たねば解決しない問題であるのでこれが「正しく」進展するように側面支援し、拉致問題については米朝のプロセスの進展を図りつつ日朝プロセスを進める。そして、日本が北東アジアにおいて、中国と朝鮮半島国家と平和裏に共存可能な関係を構築する。

ここには、バイの努力もあるでしょうし、今後進むプロセスの中でおそらくどこかの段階で(平和条約締結とか)出現する米中南北ロ日のマルチの努力も含まれるでしょう。日本の外交力が今こそ問われている。本当に、面白い(といったら怒られそうですが)激動の歴史の始まりに立ち会っている感覚があります。さて、今日の会談、どうなるでしょうか。終わったら、また、自分の見立てを検証してみたいと思います。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2018年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。