トランプは「北」に甘い妥協をしてないという推測

八幡 和郎

ホワイトハウスFacebook:編集部

トランプ大統領と金正恩委員長の米朝会談は、双方の明るい表情と、共同声明の内容のなさに各方面とも戸惑い、論評はうわべだけのものに留まり、テレビ解説者たちの解説も迫力がない。

おそらく、トランプ大統領が帰国し、安倍首相らと電話会談したりしたあと、徐々に会談の本当の中身が出てくるのではないかと思うし、それまで、待ったほうが正確なことがいえそうなのだが、アゴラでは12日夜の段階での感想を記事にする人が誰もいないようなので、明日の朝になったらハズレであるリスクはあるが、やや大胆に希望的観測をしてみよう。

共同声明は①朝鮮半島の完全な非核化、②北の体制保証、③米朝関係正常化の推進、④朝鮮戦争戦死者の遺骨送還である。

このなかで、ポンペイオが「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」しかないと前日に言っていたのに、その文言はなかった。そのことを合理的に説明するのは難しいが、私は北朝鮮は実際にはかなり突っ込んだ約束をしたのではないかと思う。

それでは、なぜ、それをトランプは言わなかったかだが、それは、北朝鮮のなかで根回しが十分にできてないからではないかという気がする。

とくに、金正恩が急いで帰国したことも含めて、クーデターなどの危険性を避けるために、具体的な約束をしたことは隠す、交渉は勝ったと見せる必要があったのではないか。

とはいっても、非核化を約束したことは公知であるし、金正恩のシンガポール行きや現地での行動はこれまでになく北でも報道させているから嘘をついたことにはならない。

トランプは記者会見のなかで、ポンペイオとボルトンが来週にも北朝鮮と具体化のための会談をするともらした。そこからどう進めるか、ある程度は方向性が見えているのではないかと推測する。

トランプが「合意文には含まれなかったが、私が直接聞いた内容だ。金委員長はすでに北朝鮮の核ミサイルエンジン実験場を破壊し始めていると話したと伝え、金委員長が北朝鮮に戻って実験場を破壊する」といったと記者会見でいったのもその一端ではないか。

トランプが中間選挙に向けて成果を出したと見せたいという説明もあるが、まだ選挙まで時間があるのだから、化けの皮がはがれるような約束するのは、それこそ、リスキーだと思う。いずれにせよ、来週の動きに注目する必要がある。

かなり謎なのは、韓国の動きだ。なぜ、文在寅はシンガポールへ行きたいと言ったのか。もちろん、参加したいだろうが、そんなこといって参加できなかったら格好悪いだけだ。

また、記者会見での文在寅へのよそよそしい言及、ポンペオがツイートした内容では、結果について日本の河野太郎外相、韓国の康京和外相に電話で説明したとあるが、この日本、ついで韓国という順序は普通には不思議だ。このあたり、金正恩が文在寅をなめてかかっているのかもしれない。北寄りだから大事にしようと日本的発想では考えそうだが、上下関係をはっきりしておきたい、トランプと直接はなせるようになったのだから、文在寅など相手にしないといった発想もありそうな気がする。

それから、会談前の人質3人の解放などは、我々が思っている以上に、アメリカは評価しているのかもしれない。

日本はいまのポジションでよいと思う。核廃棄が進まないと、拉致で進展があっても制裁緩和はできない。そうだとすれば、いま、直接の交渉をするのは、向こうにとって意味がない。

トランプは核廃棄費用を韓国と日本に持たせるとか言っている。さらに、その先に、経済協力も同様だ。日本はそのときにも「拉致が動かないと出しにくい」といえばいいことで、向こうも話を早く解決したいというタイミングで交渉すればよい。

ただ、その場合に、「全員救出」「真相の完全解明」「関係者処罰」にとことんこだわっては話が動かなくなる可能性がある。

拉致被害者の蓮池薫さんは、本日の講演で、「政府は確度の高い拉致被害者の消息情報を持っている」とした上で、「特定失踪者の中に拉致された根拠がある方もいる。線引きは難しいが、解決に向け政治的決断を」と注文。残る特定失踪者について、「国交正常化後に北朝鮮に調査への協力を要請する段階的な方法もある』と述べたそうだ。

メリハリをつけてでもチャンスを逃さない覚悟が必要なときが近づいているようだ。

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八幡和郎
祥伝社
2016-07-13