デジタル教科書教材協議会DiTTシンポジウム「AI時代の教育を考える」@霞が関。
AI時代における教育とは。
日本を代表する研究者とビジネス界のかたがたが意見交換を行いました。
AI研究の総本山リーダー3名。
乾健太郎 理化学研究所AIPセンター自然言語理解チームリーダー
・東北大教授
佐伯宜昭 情報通信研究機構NICT AIS副研究開発推進センター長
高村大也 産業技術総合研究所 AIRC知識情報研究チーム長
・東工大教授
理研は文科省系、NICTは総務省系、産総研は経産省系です。
理研・東北大の乾さんは、言葉が解るAIを作ることで教育にも貢献したいと言います。
思考力・判断力・表現力を養うには添削によるフィードバックが重要で、AIが自動添削や採点を行うことにより生徒の書く機会を増やせる。
授業や宿題の支援なら数年の間には使えるものになる、とのことです。
NICT佐伯さん。RとLの発音を聞き分けるなどのリスニング力向上策や自動翻訳、SNSでのやりとりなど教育向け対話AIも開発可能だが、学習データ、人材、予算が必要となるので、研究成果を積極活用してもらいたいとのことです。
産総研・東工大の高村さん。AIは誤り検出・訂正、問題・教材作成、自動解説生成などに応用できそうで、英作文の自動訂正などの自動化もなされており、他教科への広がりも考えられるといいます。
そのためには大量のデータが必要であり、検証も重要なので、教育現場・学習者の協力を求めました。
AI研究者にとって、教育分野は自動車、製造、金融などの産業分野に比べ、研究のプライオリティが低いように見えます。
学校現場との距離やデータ不足などの理由はあるでしょう。
ただ、ITやデジタルの利用面で教育分野が劣後したのと同様の状況がAIでも起こりつつある。
教育側が認識すべき事態です。
保守的な教育人は、教育にAIは不要、ビッグデータは不要、と言いそうです(現に言ってる人もいます)。
少し前までITは不要、デジタル教科書は不要と言われていたのと同様です。
それで日本の教育情報化は途上国レベルにとどまり、子どもたちの環境が劣後している。
繰り返したくありません。
そしてAI☓教育に先端的な取り組みを見せる3社の代表。
加藤理啓 Classi株式会社 代表取締役副社長
小宮山利恵子 リクルート次世代教育研究院 院長
本庄勝 KDDI総合研究所 教育・医療ICTグループ研究主査
ソフトバンクがベネッセとのジョイントで設立した学習支援クラウド「Classi」は2100校で導入されています。
AIが人の能力を超えるシンギュラリティの時代を生きる世代を想定し、希望を持って、未知の状況に対応できる力を育んでほしい、と加藤さんはサービスの世界観を示します。
AIの教育利用にはデータが不足しているという指摘とともに、加藤さんは、AIが失敗をうまく回避させてしまうことで学習効果につながらないという課題を示しました。
現場での効果を検証しながらサービスを提供すべき、という姿勢です。
国内42万人、海外で300万人に広がる「スタディサプリ」を提供するリクルートの小宮山院長は、東大の松尾豊研究室と共同で、ネットワーク型カリキュラムや学習者の「つまずき予防」を研究しているとのこと。
東京学芸大学とも教育☓AIの共同研究を行っているそうです。
KDDI総研本庄主査は、AIが人と人のインタフェースという認識のもと、アクティブ・ラーニング、英語スピーキングテスト、自主性を引き出す「うながし学」の研究開発を行っていると言います。
企業側はそれなりに取り組んでいることがわかりました。
これらを踏まえ、これからの教育におけるAIの可能性や課題について活発な意見交換が行われました。
学習活動に関わるデータ収集に関しては、全国的に行われている調査データの開放と流通、教員の基準やスキル、個人情報保護などの課題が挙げられました。
また、AIという言葉の定義を明確化して共通認識を作り、AIにできることとできないことを整理すべきという意見も挙がりました。
その上で、アダプティブラーニング以外の領域への導入や、子どもたちをどう育てたいかという教育のあるべき姿に基づき、技術の開発を進めるべきとの指摘もありました。
「学校という限られたコミュニティだけではなく、産官学で連携し、研究者にとっても技術革新が促されるような魅力的な研究分野になるよう、オープンイノベーションを推進してほしい」という期待の声も多く聞かれました。
教育分野のIT利用で乗り遅れた日本は、AIにも乗り遅れる可能性が高いが、そうなると取り返しがつきません。
DiTTとしてWGを設置し、様々なセクターと実証実験や提言などに繋げていきたい。
ぼくはこう発言し、シンポジウムを締めくくりました。
ここからは、アクションです。よろしくどうぞ。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。