新国立で安倍首相は「第二の東條英機」になるのか

予算が予定の倍近い2520億円にふくらんだ新国立競技場は、政治問題になってきた。安倍首相は国会で「これから国際コンペをやって、新たにデザインを決めて、基本設計を作っていくのでは時間的に間に合わない」と答弁したが、今から新たにコンペをやる必要はない。前のコンペで第2位になった案を採用すればいいのだ。


JSCのウェブサイトにも、ハディド案以外に2作品が「優秀賞」として出ており、上の図が第2位のコックス案である。審査講評でも「透明で繊細な3次曲面のドームと、内部に浮かび上がる木壁のスタンドが特徴的で、その品格を備えた静謐なデザインが好評を得た」と書かれている。

問題になっているハディド案の最大の難点は、ドームの部分に桁長400mの巨大な橋を2本もかけるために700億円以上のコストがかかることだが、コックス案は東京ドームなどと同じ柔構造のドームなので、コストは格段に低い。審査講評では「祝祭的な高揚感、強いメッセージ性に欠ける」とあるが、国立競技場は都心にずっと設置するので、ハディド案のようなド派手な建物ではなく、周囲の環境と調和することが重要だ。

World-Trade-Center-04-2コンペで1位になった案に問題があるとき、他の案が採用されるのは珍しくない。右の図は世界貿易センタービルの跡地に建てるビルのコンペで1位になったリベスキンド案だが、尖塔のような前衛的なデザインが不評で、ニューヨーク市から安全性に問題があるとして却下され、槇文彦氏のデザインが採用された。

新国立を今年末には着工しないと間に合わないというのは、2019年に行なわれるラグビーのワールドカップの問題で、これは森喜朗氏が強く執着しているようだが、ラグビーだけなら、味の素スタジアム(東京スタジアム)など他にいくらでも候補はある。

工期が3年半ですむなら、2020年7月の東京オリンピックに間に合わせるには、来年末に着工すれば間に合う。それまでにデザインを変更して構造設計をやり直すことは十分できる。そもそもハディド案は、今の段階でも構造設計ができていないのだ。

かつての戦争の最大の失敗は、アメリカが中国からの撤兵を要求してきたとき、東條陸相が「ここで引き下がっては今まで失われた20万の英霊に申し訳が立たぬ」とサンクコストに執着し、補給の計画もないのに陸軍の「今年中に開戦しないと間に合わない」という拙速論に負けて戦争に突っ込んだことだ。

ここまで来たら、「聖断」を下せるのは安倍首相しかいない。私は彼がヒトラーのような独裁者だとは思わないが、決断力のない東條に似ている。既成事実にこだわって無理なプロジェクトに突入し、巨額の損害を出したら、彼は後世まで「第二の東條英機」と呼ばれるだろう。