前ローマ法王ベネディクト16世の私設秘書ゲオルグ・ゲンスヴァイン大司教はメディアとの会見の中で、「ローマ・カトリック教会で多発している聖職者の未成年者への性的虐待事件はバチカンの(米同時多発テロ事件の)9.11だ」と述べた。同大司教は米同時多発テロ事件と聖職者の性犯罪は全く異なった出来事だと断りながら、「その衝撃度は酷似している」と言いたかったのだろう。
オーストリア日刊紙プレッセのコラムニスト、カール・ペーター・シュヴァルツ氏は先月30日付のコラムの中で、「(フランシスコ法王の辞任を要求した)ビガーノ書簡は世界の教会に爆弾どころではなく、本物の地震を誘発させている」と書いたが、ゲンスヴァイン大司教は「バチカンの9.11だ」と表現したわけだ。バチカンを取り巻く状況がさらに深刻度を増してきたことが推測できる。
ニューヨークの世界貿易センタービルの跡地で9月11日、同時多発テロ事件17回目の追悼式典が行われたばかりだ。関係者は9.11で亡くなった犠牲者を慰霊する一方、事件の再発防止で決意を改めたばかりだ。一方、“バチカンの9.11”は今も多発し、教会内外で衝撃と激怒を引き起こしている。フランシスコ法王は聖職者の性犯罪防止を何度も宣言するが、具体的な対策はまだ実施されないばかりか、聖職者の不祥事は世界の教会で拡大する一方だ。
バチカンを窮地に追い込んでいるのは、通称ビガーノ書簡だ。米教会のセオドア・マキャリック枢機卿は2001年から06年までワシントン大司教だったが、その時、2人の未成年者への性的虐待が明らかになり、フランシスコ法王は今年7月になってようやく同枢機卿から全ての聖職をはく奪する処置を取ったが、それまで約5年間、マキャリック枢機卿の性犯罪を隠蔽してきたという疑いがかけられている。米教会のスキャンダルを暴露した元バチカン駐米大使カルロ・マリア・ビガーノ大司教は書簡の中でフランシスコ法王の辞任を要求している(「法王の『沈黙』の理由が分かった!」2018年9月10日参考)。
アイルランド教会、オーストラリア教会、最近ではドイツ教会で次々と聖職者の性犯罪が暴露され、教会内外で驚きと憤りを買っている。豪メルボルンの裁判所でバチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿に対する性犯罪容疑に関する公判が始まっている。すなわち、教会の上層から下まで聖職者の性犯罪が次々と暴露されてきたわけだ。もはや、教会の過去の清算といった問題ではなく、組織としての教会の解体すら求められてきているわけだ(「カトリック教会は解体すべきだった」2018年8月17日参考)。
フランシスコ法王は10日から12日まで、自身が新設した9人の枢機卿から構成された枢機卿会議(K9)を招集し、今後の教会の刷新問題や聖職者の不祥事について話し合ったが、バチカン・ニュースによると、「枢機卿たちはローマ法王を支持した」という。ただし、聖職者の未成年者への性的虐待問題に対し具体的にどのように対応するかではまったく進展がなかった。メディアからローマ法王への批判の声が高まってきたことに対し、バチカンは対策を考えるというより、教会の自己防衛に専念してきた、といった有様だ。
米ペンシルベニア州のローマ・カトリック教会で先月14日、300人以上の聖職者が過去70年間、1000人以上の未成年者に対し性的虐待を行っていたことが州大陪審の報告書で明らかになったが、米CNNによれば、今度はユタ州のソルトレイクシティ教区とカルフォルニア州サンデイエゴ教区でも聖職者の未成年者への性的虐待事件が起きている。ソルトレイクシティ教区のオスカー・ソリス司教が13日明らかにしたところによると、1990年以来、16人の神父と2人の教会関係者による未成年者性的虐待が行われ、34人が犠牲となったという。
ニューヨークのティモシー・ドーラン枢機卿は今月13日、CNNに対し、「カタストロフィーだ。状況は悪魔的だ」と述べ、「問題は、ホモかヘテロか、リベラルか保守か、ビガーノ大司教支持派かフランシスコ法王派かではない。問題は正しいか正しくないかだ」と強調している。
そして残念なことだが、教会は「何が正しいか、正しくないか」を分からなくなってきているのだ。ちなみに、米司教会議代表団(議長ダニエル・ディナルド枢機卿)は13日、バチカンでフランシスコ法王と会見し、聖職者の性犯罪問題で話し合っている。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。