アゴラでは、周波数オークションについて継続的に議論しているが、FCCから新たな提案があったので、少しテクニカルだが紹介しておこう。
FCCのジェナコウスキ委員長はCESで、「モバイル・イノベーションに周波数を開放することがFCCの最優先課題であり、それを実現すればアメリカは世界のIT産業をリードできる」と述べ、2012年に周波数オークションを行なう方針を表明した。その対象として、彼はテレビ局のもっている300MHzの周波数を使っている家庭が10%に満たないことを指摘した。FCCはそれを返還させるオークションの手続きを定めたVoluntary Incentive Auctions Act of 2010を下院に提案している。
これは放送局の周波数を政府が買い戻す逆オークションを行なう法律で、”spectrum buy-back”と呼ばれているが、基本的な考え方はIkeda-Yeで提案した”spectrum buyout”と同じである。この考え方は単純で、通常の政府調達と同じように周波数をテレビ局から買うオークションを行ない、安い価格を提示した局から買うものだ。
ただ今回の提案は全面的な逆オークションではなく、提示された価格の一部を放送局に払うということになっている。これはおそらく巨額の支払いを行なうと「テレビ局がただでもらった電波でもうけるのは不公正だ」という批判が出てくることに配慮しているものと思われる。
これは日本の700/900MHz帯にも適用可能である。総務省は、長期的にはオークションを導入する方針を決めたが、700/900については「時間がない」のでオークションは行なわず、既存の免許人の立ち退き料を新規参入業者に払わせる「オークション」を実施すると言っている。
しかしこれはオークションではなく、私のブログでも指摘したように実行不可能である。FCCのように周波数を政府が買い戻して、普通にオークションを行なえばよい。「時間がない」というのもおかしい。電波法に「周波数を有料で割り当てることができる」という規定を入れるだけであり、手続きは会計法の国有地の払い下げと同じだ。施行細則は省令で決めればよいので、2012年からオークションを施行することは不可能ではない。
ジェナコウスキもいうように、向こう5年間でモバイルデータ通信量は少なくとも35倍になり、それに対応する周波数を確保できるかどうかで情報通信産業の国際競争力が決まる。テレビ局にとっては、収益を生まない電波を提供して収入を得るメリットがある。特に地方民放にとっては、これを「手切れ金」として撤退することが賢明だ。日本でも、FCC方式のオークションを早急に検討すべきである。