急落していた株式市場は先週金曜日に日本、米国そしてアジア市場で反発し、投資家は一安心といったところだろうが、上げ続けてきた潮目はやはりここに来て変わってしまったと言わざるを得ない。
今回の急落の原因は、米中貿易戦争の激化と米国の金利上昇が主因と言われているが、前者よりも後者の金利要因の方がより根が深く重要だ。トランプ大統領はFRBの利上げのテンポが早すぎると繰り返し非難しているが、そうした政策金利よりも長期金利の方が株などの資産価格に与える影響は大きい。
現在米国の連邦債務残高はリーマン前の2007年の2倍以上に膨張し、名目GDP比でも100%を超えている。そして今年に入ってトランプ政権の大規模減税等により、その増加の速度はさらに速くなっている。またさらに、2019年には再度の減税によって、債務がもっと大きく増えると予想をする向きもある。
これは即ち、米国債の供給が増えることを意味しているわけで、需要が急激に増えない限り米国債の価格は下がる(即ち米国の長期金利は上がる)。正確な数字の予測はできないものの、現在の3.1%とかいうレベルではなく、4%になってもおかしくない。そうなるとおそらく資産バブルははじけるだろう。
米国の株価は、先週末の反発をきっかけに、今後再び上昇トレンドに戻る可能性もある。株価にしても何にしても、相場は一直線で上昇や下降をすることは少なく、ジグザグの経路をたどるのが普通だからだ。このため、世間では、現状は「まだバブルと言える状況ではない」とか「これはバブルではない」と主張する人も多い。しかし、米国のITバブルの時も、リーマン前のサブプライム・バブルの時もそうだったが、バブルは膨張している間はなかなかバブルと認識できないものだ。
なぜバブルと認識するのが困難かという理由は、株を買っている人はバブルが続くと言った方が自分にとって都合が良いなど、様々な理由があると思うが、経済政策の担当者がこのような発言をするのは、マネーとバブルの関係を正しく把握していないからだと私は思っている。
経済学ではフィッシャーの交換方程式と呼ばれる数式がよく知られている。これは「貨幣量×流通速度=物価×取引量」というもので、マネーの流通速度が一定という前提の下では、左辺のマネーが増えると、右辺の物価×取引量が比例的に増えるという単純な理論であるが、問題はこの右辺を名目GDPと理解している人が多いことだ。これが間違いのもとなのだ。
私が尊敬する赤羽隆夫先生(元経済企画庁次官、元慶応大学教授)は既に1981年にその著書の中で、これについて卓見を述べられた。端折って言うのでかなり正確性に欠けることをお許しいただくとして、簡単にそのポイントだけを述べれば、マネーはGDPに計上される取引に使われるだけでなく、株や不動産など資産の取引にも使われるのだから、フィッシャーの交換方程式の右辺には名目GDPだけでなく株や資産の取引もカウントする必要があるというものだ。
マネーが増えれば当然株価や不動産価格も上がる。特に最近のように貸出先に悩む銀行が、不動産融資に注力する状況の中では、マネーのかなりの部分は不動産取引のために作り出され、使われている。
残念ながら赤羽先生の学説は大きな影響力を持ちえず、80年代後半のバブルの時代には、GDPデフレーターや消費者物価が上がっていないからこのまま金融緩和を続けても問題ないという意見が大勢を占めて、日本のバブルは膨らんでいった。
現在世界はバブルの中にいる。バブルはこれまで、はじけなかったことがないだけでなく、バブルが大きければ大きいほど、はじけた後の被害も大きい。
今年1月31日のブルームバーグテレビジョンのインタビューで、グリーンスパン元FRB議長は、現在米国の債権市場と株式市場でバブルが生じていると明言し、特に債券市場のバブルは最終的に重大な問題になるだろうと述べた。
またジョージソロスと共同でクウォンタム・ファンドを設立した著名な投資家のジム・ロジャーズも、米国の公的債務を始め、世界の主要国の債務はかつてない規模に膨らんでおり、このことが我々にこれまで経験したことのない規模の災厄をもたらすことになることが懸念されると述べている。
世界の資産バブルはそろそろ危険水域に入ってきているようだ。