相手に話を伝えたからといって、ビジネスの現場では相手が動いてくれなければ意味がない。交渉のシーンでは、「お願いしたいこと」を伝えるだけでは成果とはいえない。相手が動くことで初めて成果といえる。伝わらなければ、価値はない。
今回は、『期待以上に人を動かす伝え方』(かんき出版)を紹介したい。著者の沖本るり子さんは、「5分会議」を活用した、人財育成や、組織活性化の講師・コンサルタントとして活動中。TBS報道番組Nスタで“プレゼンの達人”と紹介されたことがある。
情動のハイジャックを覚えておきたい
「情動のハイジャック」という言葉をご存じだろうか。世界600万部の大ベストセラーにもなった、『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン著)のなかでも紹介されている印象的なChapterである。
「売り言葉に買い言葉で熱くなった状態」「上司の叱責で緊張のあまり言い返せなくなった状態」。子どもにありがちな「キレる」という状態も情動(感情)がコントロールを失っている。最近、話題にのぼる、パワハラ上司なども包含されるだろう。「怒り」「嫌悪」といったマイナスの感情を感じると「情動のハイジャック」が発生しやすい。
これらの、情動がパニックを起こした状態のことを、ダニエル・ゴールマンは「情動のハイジャック」と称した。「情動のハイジャック」を起こした状態では、適切な判断をおこなうことは難しく、業務遂行に支障をきたしていることは明白である。
情動のハイジャックが発生し易い業務は
社内業務で情動のハイジャックが発生し易いものに「会議」がある。ハイジャックされると建設的にはならない。これでは、「時間のムダ」になってしまう。
「いつも同じ人が発言していて会議の輪に入れない、話が長くて、なにがいいたいのかがわからない、脱線や迷走が多く、議論がなかなか進まない、結局、声の大きい人によって結論がひっくり返される、など心当たりはないでしょうか。このような会議は建設的な議論が難しくなります。参加者の意識も希薄になります。」(沖本さん)
次に、会議に参加する人の個性を考えてみたい。「自己中心的で自分の意見ばかりを主張するタイプ」「リスクやネガティブなことをいい出して徹底的に批判するタイプ」「会議の成り行きで有利なほうにつこうとするタイプ」。出席者もいろいろだ。
「会議の際に、悪影響を及ぼすのは『ネガティブオーラ』です。しかしルールをつくっておけば、マイナス意見が出たとしても対応策を考えればいいだけ。議論がネガティブな方向に進むことはありません。マイナス面を出しっぱなしにするのではなく、『では、どうすればいいのか』と全員で考えるのです。」(沖本さん)
「会議を通じ、物事の見方や考え方をプラス・マイナスの両面で捉えることは大切です。考えることで、改善策、予防策につながるからです。」(同)
相手を動かすのがビジネスの要点
本書は「伝える」「伝わる」からさらに踏み込み、「伝わった結果、相手が期待以上に動いてくれる」ことをゴールにしている。「値引き交渉をおこない、3%の値引きを期待したが、5%の値引きに成功した」。「部下にアドバイスをしたところ、10日で予定した仕事が3日で終了した」など。相手を成果に導くことはビジネスの要点といえよう。
また、シュミレーションの設定が豊富である。会議を開いて「何か意見はないですか?」と尋ねても、積極的な意見が出されることは稀である。管理職の役割のひとつに、「課題解決」がある。課題を追求するのではなく、将来の課題を設定し解決策を導き出す行動特性になる。これも、自分ごととしてとらえなければ、成果にはつながらない。
非効率な仕事でも事実が積み重なると、「仕事をした気分になる」から不思議なものである。あなたの所属している部署はいかがだろうか。また、あなたの仕事ぶりは?
尾藤克之
コラムニスト
『即効!成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)
※出版後2週間で3刷となりました。心より御礼申し上げます。