今年も大晦日を迎えた。ウィーンでは同日をシルベスターと呼び、街に出かけ、シャンペンをかわしながら年を明かして踊り祝い、新年を迎えるのが慣例となっている。今年も60万人余りの市民や旅行者が街に押し寄せてくるものと予想されている。
ウィーン市1区の同国ローマ・カトリック教会の精神的中心地、シュテファンスドーム大聖堂前周辺ではワルツに乗ってダンスをするカップルで一杯となる。周辺のレストランはシルベスター祭の客を見込んで、通常より高価なメニューを準備してもてなす。
ところで、オーストリア警察当局は26日、「信頼できる友邦国からの情報によると、12月24日から来年1日までの期間中、人が大勢集まる場所を狙って爆弾もしくは銃器を使用したテロが起きる恐れがあるという警告を受け取った」という声明を発表した。
警察当局によると、ウィーン市だけではなく、6カ所の欧州都市(ローマ、ワルシャワ、ブタペスト、モスクワ、パリ)がテロの警告を受けたという。ただし、シルベスターなどの慣例イベントの開催中止を主催者側に要求する理由はないという。警察側は潜在的テロリストを既に見出しており、慎重に捜査中という。
警察側のテロ警告を受け、駐オーストリア日本大使館領事部は同国に住む邦人に緊急テロ警戒情報を送信している。それによると、「報道によれば、ウィーン警察は具体的な脅威等は確認していないが、交通(移動)のハブとなるような場所や人が多く集まる場所の監視を強化中だ。また、警察による身分証明書の確認や鞄等の検査も頻繁に行われる」という。
領事部は、「人が多く集まる場所やテロの標的となりやすい施設(イベント会場とその周辺、政府施設、公共交通機関、観光施設、デパートやマーケット等)を訪れる際には、周囲の状況に注意を払い、不審な状況を察知したら、速やかにその場を離れるなど安全確保に十分注意」と通達している。ウィーン市の場合、シルベスター祭のほか、ニューイヤー・コンサートなどが潜在的なテロ対象と見られている。
今年はテロで始まり、テロ警告で幕を閉じようとしている。1月7日、イスラム過激派テロリストによる仏週刊紙「シャルリーエブド」本社とユダヤ系商店を襲撃したテロ事件が発生した。そして先月13日には再びパリでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による「同時テロ」事件が生じ、130人の犠牲者を出したばかりだ。後者のテロ事件は欧州初の「同時多発テロ」であり、国民が集まる場所を狙ったソフト・ターゲットのテロ事件だったことが特徴だ。
100万人を超える難民が北アフリカ・中東から欧州に殺到し、難民受入れで欧州連合(EU)加盟国で意見の対立が表面化するなど、その対応で苦慮した年だったが、難民の中にテロ容疑者が紛れ込んでいたことが明らかになり、欧州各国は難民への対応で再検討を強いられている。ちなみに、フランスの2つのテロ事件でも明らかになったように、ホームグロウンのテロリスト対策と欧州居住イスラム教徒の社会統合が急務と受け取られている。
なお、オーストリア連邦憲法擁護・テロ対策局(BVT)によると、オーストリアからシリア内戦に参戦した数は既に300人を超え、シリア帰りは70人と推定されている。
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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。