メキシコでタンクローリ運転手2000人が高給で募集された理由

1月18日に発生したメキシコ・イダルゴ州でのパイプラインの火災は大惨事となって100人を越える犠牲者を出した。

昨年12月に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)新大統領にとっても就任早々の大惨事ということで、この問題の早急なる解決に取り組むことに決めたようだ。その解決の抜本的な対策として、これまでのパイプラインによる燃料の輸送を出来るだけ控え、タンクローリ車で燃料を輸送するというシステムを導入することを決定した。

その為にメキシコの1社と米国の3社へ計671台を発注。日毎に14万バレル分の燃料を陸路にて配送することにしたのである。この購入費用は総額9200万ドル(100億円)になるという。

タンクローリ車の容量には3万リットルから31500リットル、4万リットル、6万リットルとある。アムロ政府は6万リットルと3万リットルを主体にしたという。

今回のような事故を再発させないために早急なる解決が必要ということで、タンクローリ車の今回の購入には入札なしで政府は決定するという手段を選んだ。その為に、政府が設けた買付委員会は事前にメキシコのバス及びトラック協会そして米国のタンクローリ車生産連盟とも接触をもった。更に、PEMEX(メキシコ石油公社)の技術担当者も買い付けに選ぶべきタンクローリ車について技術面で協力を仰いだという。買付の詳細の詰めに買付委員会はニューヨークを訪問した(参照:imagenradio.com.mxnoticierouniversal.comsinembargo.mx)。

最初の納品は2月1日に50台、8日に50台といった分割による納品で、3月29日に最終の納品が予定されている。

タンクローリ車の納品に合わせて、その運転手の手配が必要である。アムロはこれを「仕事を探しているのか? アムロが君を運転手として必要としている」というタイトルで全国に大々的に広報した。そしてタイトルのすぐ下に「これは冗談ではない。君の援助は国のガソリンの供給不足を解決する為に不可欠となりうるのだ」と付記している(参照:lifeandstyle.mx)。

政府のプランは2000人の運転手を採用すること。応募要項が色々と説明されているが応募者にとって断然魅力なのは給与が29,000ペソ(168,000円)という報酬である。しかも社会保障費もついている。メキシコで規定されているひと月の最低賃金は3,080ペソ(17,800円)ということを考慮すると可なりの高給である(参照:elpais.com)。

イダルゴ州のパイプラインの火災によるインパクトと高給が稼げるという魅力とで、アグアスカリエンテス市から800キロの距離を走行してメキシコシティーの応募試験に駆けつけた薬品会社の配送を仕事にしているオスカル・ラミレスは「国に奉仕したい。イダルゴでの出来事に強烈に打たれた。だから応募することに決めたのだ」と取材に答えた。

メキシコシティーから100キロ南下したクエルナバカ市から応募したホセ・カルロス・オルティッツは「(運転手として)10年の経験がある。これだけの給与は稼いだことがない」と採用されることに期待を込めて語った。

結局、応募者は6,199人で、1月21日の時点で804人が採用された。そして、1,513人が採用条件で何かが不足または確認が必要ということで、採用か否かの評価がまだ下されていないそうだ(参照:sinembargo.mx)。

高給が支払われるという背景にはタンクローリ車を運転するには危険が伴うからである。カルテルから襲われる可能性が常にあるということなのである。

昨年だけで2600台のタンクローリ車がカルテルによって盗まれているのである。特に、ミチョアカン、グアナフアト、プエブラの3つの自治州は最も危険地域だとされている。しかも、盗難は年々増加しており、2015年は1200台、2016年は1963台そして2017年は1820台で、2018年は2017年に比較して45%の増加だという。盗む手段には多くの場合、通行止めをしてタンクローリ車を渡すように要求するのである。だから道路上で周囲に走行している車がいなくなると運転手は緊張するということになる(参照:elsoldemexico.com.mx)。

アレハンドロ・ゴメス(29)は4年前からガソリンの輸送をしているが、グアダラハラの道路を運転していて周囲に走行している車がいなくなると身体に震えを感じるようになるという。3車線の路上で両サイドから同時に車が近づいて来ると血が頭に上るそうだ。そして、彼の横を通り過ぎて行った時にはほっとするという。

31000リットルのガソリンを積んで運転しているイバン・サンチェスも運転していて不安になるそうだ。ガソリンは金になるから狙われたらどのような手段でも獲得するまでやって来るということに恐怖を感じているそうだ(参照:animalpolitico.com)。

政府はタンクローリ車によっては警察の護衛をつけると言っているが、かならずしもそうではなく、寧ろ、その反対だと言っている運転手もいるそうだ。

いずれにせよ、タンクローリ車のメキシコでの運転は危険を伴うことは確かだということだ。