久しぶりの休日、ちょっとおもしろい記事を見つけた。
実はグラミー賞を受賞していない、伝説のアーティスト25組(Harpers BAZAAR)
グラミー賞の信頼感は別格だ。
あらゆるスタイルが入り乱れる“音楽”という異種格闘技の場で、その年のベストを選ぶある意味無茶な試みは、毎年の受賞作で、結局いつも“なるほど”と納得させられる。
ストリーミング音源の恩恵で、ちょっと新しいプレイリストが欲しいと思ったときなど、過去のグラミー受賞作を検索すると往々”お宝”に出会いもする。
特に“最優秀アルバム賞”は、聴き返すとその時代が鮮明によみがえる、素晴らしい作品のオンパレードだ。
圧倒的な信頼感のグラミー賞だけに、選外は意外な顔ぶれ。
とはいえ人間が選ぶ賞である。なるほど先の記事によれば、“なんで?”があったわけだ。
え、今話題のクイーンも、本来のコンペティション部門受賞はないの?ジミヘンやボブ・マーリー、ジャニス・ジョプリンというレジェンド系も取ってない。さすがに、ダイアナロスはびっくりした。勝手にグラミー賞にぴったりな気がしていたので。
しかしながら、さもありなんと納得してしまったのが、ジャーニーとKissだ。
個人的にずっと大好きだし、今でもスポティファイのロックレジェンド枠で結構リコメンドされる実力ある素晴らしいアーティストに間違いないはず。
でも正直言うと、ジャーニーとかKissの全盛期、玄人やマニアからはバカにされてたかも?とは思う。
グラミー賞はアメリカのレコーディング・アカデミーに所属する、演奏者、プロデューサー、作曲家、エンジニアというクリエイター仲間が選ぶ、つまりプロが選ぶ賞だ。
Kissの装束を見てもらえばわかるように、彼らはあまりにサービス精神あふれるアーティストたちなのである。
音楽の作家性にこだわる玄人集団からは、ちょっと大衆迎合的と思われたのかもしれない。
なんだか懐かしい。渋谷陽一が、産業ロックを批判していたころ
そういえば、音楽評論家の渋谷陽一氏が“ロッキング・オン”という音楽評論誌で“産業ロック”という言葉を使い、先述のジャーニーなど思想性の感じられないメガヒットロックアーティストを批判していた時代があった。
渋谷氏は、当時ともすると外国人ミュージシャンを、アイドル的に売り出し、ひたすらミーハー的に祭り上げる日本の音楽ジャーナリズムへのアンチテーゼを主張していた。長くNHK-FMで番組を持つなど、トークが魅力的だったこともあり、私を含めファンが多いちょっとしたカリスマだった。
ロックの思想性という、世の中的にはほとんどどうでも良い話で、延々熱く盛り上がっていた時代が懐かしくもありバカバカしくもある。
それにしても、引き合いに出された“ジャーニー”にとっては、ちょっと気の毒な気がする。
今振り返ると、別に、音楽に思想が必要なんて誰が決めたんだー?(あ、渋谷陽一か)という話なのである。
“朝日ジャーナル”の、知的ミーハーイズム。振り返ると“恥ずかしい”としか言いようがない。
そう、昭和までだろうか。確かに、より知的で思想的であることがカッコ良かった時代があったのだ。
まだ学生運動の時代の名残も多少あったのだろうか、ちょっとリベラル志向の空気もあった。
朝日新聞が発行していた、“朝日ジャーナル”を生協で買ってなんとなく持ち歩く。
そんな、時代が確かにあった。うーん、若気の至りとはいえ恥ずかしい。
何より”朝日ジャーナル”には、今考えても、ほとんど面白い記事がなかった。
そうこうしているうちに、平成に入り平成4年の1992年に廃刊してしまったが。
結局、ネットによって情報の非対称性が崩れた今が、一番“健全”で“快適”だ。
この知的でなんとなく高尚なほうが偉い時代は、ネットやSNSの普及とともに廃れていった気がする。
ときに最近、大御所ジャーナリストの女性スキャンダルが多い。
鳥越俊太郎氏や広河隆一氏など、そろいもそろってオールドスクールスタイルのおじさんジャーナリストが若い女性を口説いたとか、なんだとか、気持ち悪いのであまり深くは読まないが。
いや、なんとなくは想像できてしまうのだ。飲み屋のカウンターで天下国家や政治論を論じながら女の子を口説く姿が。(私の場合は、若気の至りで“朝日ジャーナル”を持ってウロウロしただけなのでお目こぼしくださいね。)
ひと昔前で言えば、ジャーナリストは自分たちだけが情報をもち、発信の場を独占する特権階級だったし、ちょっとしたステイタスもあった。きっと、彼らの中にはその立場をゲスに利用してきた輩もいたのだろう。
でも今はそんなやり方がまったく通じないはずだ。何より、情報の非対称性が崩れ、彼らが特権的に持つものは情報にしても立場にしてももはや多くはない。逆に不行状は速攻で特定され、発信されるだろう。
そう考えると、時代は変わったものだ。
もったいぶった知性や高尚”ぶり”の偽善者がのさばる時代より、今のほうがなんぼかスガスガしいことだけは間違いない
さあ久々の休み、今日は久々にジャーニーを聴こうかな。
“Don’t stop believin’”
たとえグラミーを取ってなくても、産業ロックで思想性にかけてようとも、今だからこそ素直に彼らの音楽を楽しめる気がする。
秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。