4月11日の韓国中央日報は「米議会『臨時政府、韓国の民主主義発展の土台』決議案を発議」との見出しで次のように報じた。
米国議会が10日(現地時間)、大韓民国臨時政府樹立(1919年4月11日)が韓国の民主主義発展の土台になったという内容の決議案を発議した。米国議会が大韓民国臨時政府を大韓民国建国の始まりだと公式に認める決議案を出したのは今回が初めてだ。
へーっと思いつつ米国議会のサイトを当ってみた。なるほど上下両院の超党派議員が決議案を提出していて、冒頭には「決議案 大韓民国との米国の同盟および米国における韓国系米国人の貢献の重要性を表明し」とあり、確かに4項目ある決議案の4番目にこうあった。
(4) recognizes the formation of the Provisional Government 100 years ago as fundamental to the vibrancy, success, and prosperity of the Republic of Korea’s democracy today.
(4) 100年前の臨時政府の形成を大韓民国の今日の民主主義の活気、成功および繁栄の基礎として認識する。(筆者訳)
中央日報は「米議会『臨時政府、韓国の民主主義発展の土台』決議案を発議」と見出しに書いて、米国議会が1919年の臨時政府を認めたとたいそうなはしゃぎぶりだ。が、そもそも筆者にはこの決議案の主眼がそこにあるとはとても思えない。
米国議会の決議案づいていて恐縮だが、2月21日の投稿「米朝外交:新聞が書き漏らしたこと、トランプ談話と米議員決議案」ではその決議案には2月末の米朝会談に向かうトランプへの釘刺しの意味合いがあると書いた。
また同決議案が可決された4月7日の投稿「韓国中央日報『米上院外交委員長、日韓に葛藤克服を要請』を読んで」には上院外交委員長の「(日韓の)葛藤克服」発言の言わんとするところは、中央日報のニュアンスとは違って、「韓国はもう少しよく考えて行動せよ」という意味だと書いた。
つまり、2月21日の決議案はハノイに向かうトランプへの日米韓同盟のリマインダー(注意喚起)であり、4月7日の上院外交委員長のコメントと今回の4月10日のこの決議案は、米韓首脳会談を前にした文大統領とトランプ大統領への、とりわけ文大統領への米韓同盟の重要性のリマインダーだろうと筆者は思うのだ。
11日の中央日報が見出しにした臨時政府の件など、訪米してくる文大統領への米国議会からのささやかなギフトに過ぎないと思う。なぜなら、前提条件文(Whereas Clause)の中に次の一文があるからだ。(太字は筆者)
Whereas, on August 15, 1948, the Provisional Government of the Republic of Korea, established on April 11, 1919, was dissolved and transitioned to the First Republic of Korea, the country’s first independent government;
1948年8月15日、1919年4月11日に設立された大韓民国臨時政府は解散されて、韓国最初の独立した政府である大韓民国に移行したので・・-(筆者訳)
文大統領は訪米直前の4月9日、「大韓民国臨時政府は韓国の根であり、今の韓国を作り上げた原動力」と述べた上で、「『三・一運動』で誕生した臨時政府は解放を迎えるまで日本に立ち向かい自主独立運動の中心として使命を果たした」との認識を閣僚会議で示している。
が、決議案の先の一文は、文大統領が1919年の三・一運動と臨時政府を重視するあまり、日本敗戦後に連合国が韓国に与えた1948年8月15日の独立を軽視し過ぎていることへの痛烈なリマインダーだと筆者は思う。米上下両院の超党派7議員が謳う項目には、それぞれ何かしら意味が込められるはずだ。
それは先述のギフト4番目以外の3項目の決議案を見れば得心がゆく。どれも文在寅の従北一辺倒の姿勢に釘を刺す文言ばかりではないか。(以下、筆者拙訳のみ)
(1)インド太平洋地域における平和と安全の促進において、米国と大韓民国の同盟が果たす重要な役割を認識する。
(2)米国と大韓民国との間の外交的、経済的および安全保障上の関係の強化および拡大を要求する。
(3)大韓民国との米国の同盟が、民主主義、自由市場経済、人権、および法の支配の共有された公約に基づいて、域内における米国の利益および関与を推進するための中心であることを再確認する。
だのに中央日報がこれら3項目には全く言及せず、「韓国政府関係者は『米議会決議案に大韓民国臨時政府樹立が記述されたのは初めてのこと』としながら『臨時政府樹立100周年に際して米議会が臨時政府を公式に認めるという点で意味が大きい』と明らかにした」などとばかり書くのは能天気すぎまいか。
ただこのところの韓国紙の記事をみると文政権に対してかなり厳しい論調が並ぶのも確かだ。朝鮮日報のみならずハンギョレでさえ「歴史の正義と外交現実の衝突」と題する4月3日のコラムで、いわゆる徴用工判決に関する文政権の対応をこうたしなめている。
・・放置は政府の職務遺棄に近い。現在、韓日関係の興亡の重荷は、徴用被害者にすべて背負わされている。賠償を取り付けるためには、日本企業の差し押さえ資産の現金化手続きを踏まなければならないが、この場合は、日本が報復措置に乗り出す可能性が高い。これは、ともすれば韓日間の正面衝突に飛び火する事案であり、徴用被害者たちが個人レベルで対応できる限界を超える問題だ。
いずれにせよ、国家全体に影響を及ぼす事案であるだけに、政府が乗り出すほかない。利害当事者である徴用訴訟代理人団や民間専門家とも話し合い、意見を求めるとともに、日本に対してももう少し積極的な姿勢で臨まなければならない。今すぐ解決策を見つけるのが難しいからといって、あきらめて放置するには、あまりにもリスクが高い。
さて、本稿がアップされる頃には米韓首脳会談の結果が明らかになっていよう。敢えて予想すれば、トランプが文在寅を厳しく詰問したりするとは思わないし、きっとジェントルマンシップで接遇するだろう。が、話の内容は文にとって相当に厳しいものになり、対応を間違えればそれこそ政権を揺るがすことにもなりかねないだろう。それほど文政権の立ち位置は内外ともに厳しい。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。