震災から1ヶ月が経過した。あの日から世界が、見える風景がガラっと変わってしまったように感じることがある。
しかし、実際には、ほとんどのことは変わっていない。特に、日本経済が抱える構造的な課題は、3月10日から何ひとつ変わっていない。
そして、それらの構造的な課題を克服するために必要なすべての施策について、「いやだ」と反対を続ける日本人のメンタリティも変わっていない。
毎年40兆円しか収入がないのに90兆円も使い続けたら辻褄が合わないことは小学生でも分かることだが、収入を増やそうと増税を提案しても、「財務省の陰謀」「先に削るべき無駄があるはずだ」と反対する人たちが多くいる。
収入が増えないなら支出を減らすしかないのだが、もっとも大きな支出である年金を減らすために受給開始年齢を引き上げようとしても、高齢者が反対する。
次に大きな支出である医療費について、保険料を上げるか、自己負担を増やそうとしても、「弱いものいじめ」「姥捨て山」と反対されるので、実行できない。
ならば医療コストを合理化しようと、レセプトの電子化や、医療データの開示を迫ってみても、(無駄な投薬や検査を指摘されかねない)医師会が猛反対する。遠隔医療を実現しようと思っても、しかり。
支出を減らせないので、やっぱり増税できないかと考え「まずは公務員が身を削れ」という主張を実現しようと思っても、労働組合が反対するから人員削減も給与カットもできない。
それなら上げ潮路線で行くしかないので、企業に頑張って稼いでもらおうと、できるだけ競争しやすいように減税したり雇用コストを下げようと思っても、「大企業優遇」と労働組合とマスコミが反対するので実行できない。
企業経営に緊張感を持ってもらおうと、市場を通じた経営監視機能を高めようとすると、今度は大企業経営者が猛反対する。結果、皆がジリジリ沈んでいく。「企業の競争力強化」がまっとうな政策として取れないのは、日本くらいではないか。
ならば莫大な金融資産を活用することで投資で稼いでいこう、と思って資本市場で投資ファンドが活躍し出したら「汗をかかないでお金を稼ぐのはけしからん」という風に検察も裁判官が反対するので、投資家が日本の資本市場から去っていった。
新しい産業を創ろうとちょっと尖った生意気な起業家が出てきたものの、本当に社会を変革しうる核心部分に迫ろうとしたら、メディアに猛反発を受け、司法の助けも借りて刑事犯罪人に仕立て上げられてしまう。
農業や医療・介護といった分野で規制の見直しをすることで新産業を育成しようとしても、業界が反対するので、実行できない。しょうがないので、政府の成長戦略と称して「グリーン・イノベーション」やら「ライフ・イノベーション」やら、誰も反対し得ない空虚な言葉を掲げ、お茶を濁す。
少子化で人口が減って行くのが困るので、移民を促進しようと思ってみても、外国人の看護師試験合格率は4%と、司法試験並にハードルを上げて、導入を事実上拒む。
結局、国民全員がいやいや駄々をこね続けるので、今は文句を言えない子供たちに負担を押し付けることになる。
この国を変えるのは、容易ではない。官僚が悪いとか、デフレが悪いとか、日銀が悪いとか、スケープゴートを見つけてきて、その一つを直せばいいようなことではない。
国民が聞きたくない真実をつきつけ、正しい方向に導くことが、政治家、メディアの責任ではないか。そういう政治家、メディアを支持するのが、国民の責任ではないか。
私たちは、ひとつひとつ、自分ができる小さなことから変えていくしかない。
コメント
全くその通りだと思います。根が深いのは大半が既得権益者であるにもかかわらず、それを意識さえできていないことだと思います。自分がやっているとも思わずに将来世代に全てを先送りし、結局JALのように破たんまで行かないと気づくことができず、物事が解決できないのではないかと思ってしまいます。
そうならないように一人ひとりの有識者が努力するのが重要ですし、万が一破たんに近い状態になることも想定に入れた上で、社会的に立場が弱い人に対する施策・セーフティネットを今から考える必要があると思います。
総論賛成、各論反対。
いつの時代も組織を動かす時には必ず抵抗する人が現れます。それは日本だけではないと思います。その抵抗する人達に国全体にとっての政策の必要性を説き、全体のビジョンをしっかり示すことが必要なのでしょう。
それをリーダーシップと呼ぶし、それが出来る人がリーダーとなる人です。
この国は大企業や政治家までもがサラリーマン根性で事なかれ的にやっているので、求めるリーダー像がはっきりしないことが問題なのだと思います。
上記で言われたことを一挙に同時にやると出来る気がします。日本人は自分だけがわりを食うのは抵抗しますが、皆が苦労してるときに自分だけ楽をしようとはしないものです。何かきっかけがあれば・・・
もう少し本著「甘えの構造」にも言及がほしいと思いました。それ以外は面白かったです;
すばらしい。
政治がリーダーシップを発揮できない最大の理由は、首相の権力基盤が弱すぎるからでは?
誰かが反対することをやろうとすると、その座から引き摺り下ろされるので、首相になっても誰も何もできない(小沢が書いていた「少数決」の世界)。小泉さんみたいな特殊な人、もしくは特殊な状況が発生しない限りは。
その権力構造を改革するのが何よりも大事ということを、マスメディアは広く国民に訴えるべきと思うのですが、あいかわらずスケープゴートを叩いて、安物のカタルシスの選挙民の
脳みそを洗脳している。
戦争に世論を導いた戦前と同じ。だから、最初に改革されるべきはマスメディアでは?
まさにその通りです。
いつの時代も、何するにしても反対する人はいます。
しかし、それをどう伝えるのか?これのもっと目を向けてほしい。
コメンテーターやキャスターが言う事が本当に正しいのか?それらの言葉に乗っかって甘えてないか!という事は、私も常々思っていました。
変えるには、いっぺんにシステマティックに変えるのと、徐々に変える方法があると思う。
でも、いっぺんに変えるのは難しい。傾いた会社の建て直しなら、古参経営陣が片っ端から2代目に反対、無視を決め込んでいる状況だ。
こういうときは、古参経営陣を入れ替えるか、入れ替えられないなら、正規の命令系統とは別のところで成功事例を勝手に作って膨らませるかだ。
誰の目にも明らかな成功事例を示せれば、よくわからず反対していた人間も乗り換える可能性がある。
大阪の橋本知事の構想は期待が持てるな。
>国民が聞きたくない真実をつきつけ、正しい方向に導くことが、政治家、メディアの責任ではないか。
>そういう政治家、メディアを支持するのが、国民の責任ではないか。
全くもってその通りだと思います。しかし、戦後65年を振り返ると国民は権利は主張しても責任は放棄するということにすっかり慣れきってしまいました。
この20年間負け続け、財政破綻する日も近いと予想されるのに未だ変わらないまま、次から次へと自分たちが選んだ首相をひきずりおろすことに未だ余念がありません。
かつて地球上に栄えては滅んだいくつもの文明と同様に、日本も破綻するまで指導者をコロコロ変えて、じりじり衰退の途を歩むか、ポピュリストを指導者にして一気に破滅するかどちらかでしょう。歴史は繰り返します。
もし、人類が歴史から何か学ぶものがあるとすれば、それは「人類は歴史から何も学ぶことはできない」ということだと私は思います。
満場一致で物事は決まらないのは小学生でも知っていることです。八方美人の態度しか取れない人間はリーダーに向いていません。民主主義なので多数決という手もあるのですが、政党制のせいで『本来の意味での多数決』ができなくなってしまっているのが致命的です。そういった意味で「郵政解散」で多数決に委ねた小泉さんは素晴らしいと思う。
甘えが問題なのではなくて、甘えに迎合する姿勢こそが間違いなのだと思います。
まず、「人は死にたくないものだ」という前提は合意できると思います。
「変える」ことは、今とても多くの人にとって、死を意味しているような印象になるのです。
元々、人は今まで生きてこれたのだから、今までどおりにしていればこれからも生きられると思っています。
で、現実がどうであれ、小泉改革→派遣村のイメージ操作はがっちり成功しています。
また派遣村は、「堅実レールに乗れなかった者には死あるのみ」という強いメッセージも社会全体に叩きつけています。
また、変わっていいことがあるかといえば、ホリエモンが強いマイナスメッセージも出しています。
それらのメッセージに打ちのめされ、社会全体の、根底的な自信のなさ・絶望感・改革疲れ…それらが固まって、もう動きたくない、という感じになっているのでしょう。
このままではだめだ、といわれても、大半の人は「どうせ改革された世界では自分は生きられない」と思うでしょう。
外が荒海で、次々と飛び込んだ人がサメに食いちぎられ八つ裂きにされるのを見たら、泳ぎに自信がない人はいくら船が沈みかけていてもしがみつくだけでしょう。
まず成功例。
そして死にはしないという安心…きちんとしたセイフティーネットの構築がなければ、勇気など出ません。
本当は日本人の九割は、餓死か飢餓難民キャンプ状態の極貧しかない、というのなら…結局動く気力は出ません。
本当におっしゃるとおりですね。
このまま財政破綻するまで待つしかないのか、という絶望的な気持ちにもなります。いやいやする国民ばかりではないと思いますが、政治のリーダーシップだけでなく、合意形成のためのプロセスがありません。オランダのワッセナー合意のように、国民的な議論と合意に基づいて、指摘された問題を一度に変える くらいのことが必要なのではないでしょうか。
岩瀬様の年代の、問題意識を共有でき、既得権者をおそれず、本当に国のためと将来世代のためを考えられる経済界や政界の若いリーダーの方たちで、日本を動かしていただけないでしょうか。
そうかもしれませんが、国民は日本が変化に弱い事を、なんとなく感じているのかもしれません。かって経済危機に陥った国にいたことがあります。貨幣価値がものすごい勢いで落ち、輸入品の価格がうなぎのぼり、でも国民はいたって平穏。それは市場には、食品が満ち溢れていたし、買えない価格でない。自給率が100%越えた農業生産国のうえ、地下資源も豊富な国だったことが、幸いしたのではないかと思う。それに比べて、資源も無く自給率の低い日本での、大きな変化はどのような結果を招くかの、予測は難しい。今回の災害は不幸なことだけど、大きな変化ができる転換期として利用できるかが求めらている。そうしないとただの不幸な災害だとして、青史に残ることになってしまう。その点は論者の意見に賛同します。
とにかく多くの人に読んでもらいたい内容です。
”ごね得”は日本に限ったコトではありませんが、こんなんでもまだやっていけてる日本をある意味凄いとも思います。
正し過ぎる分析だけど、解決法はまだ見当たらない。これ程の非常時でも、変われないのなら、もう無理なのではないか。
私たち一人一人に出来る事とは、自らの保身でしかないし、そのツケを払わせられるのは、これから40年後に生まれる日本人なのだから。
孫さんにお願いして、Yahooの電力使用状況とならんで、リアルタイム財政赤字カウンターを表示していただくのはどうでしょう・・ (オフィス版にでも!)
http://www.kh-web.org/fin/
同感です、まったくもって
私が想う解決方法は
若い世代の私たちが痛みを覚悟の上で
立ち上がるべきだ
やるしかない
やらなきゃはじまらない
やらねばと想っている人達を各都市に集めて
月一回でもここに書いている想いや考えを
ユーストリームやYOUTUBEなど動画にて配信して
新しいデザインをして
建設的に発展的に考える新しいメディアを起こすなど
月に一回でいい
日本全国各都市で集まればいい
なにかせんとはじまらない
配信して同志を集めて
変えよう変わろう
創造的破壊にて???
私も同じ想いです。
もう年寄りに任せれません。
一度すべてをリセットする時期です。
まずは、政・官・財での60歳以上の年金受給者の方々には引退して頂いて後進に道を譲って頂きたいものです。
現役世代に任せていただきたいものです。
立場が人を変えますので、各ポジションで次のリーダーが
必ず出てきます。
その上で、年金受給者で資産を持っている方々は、今こそ国難ですから、国債を購入してください。
少なからずこの国で良い想いをしたのですから、それぐらいしてもバチはあたらないと私は思います。
岩瀬氏の具体論もお聞かせいただければ幸いです。
岩瀬氏の意見に対して反対する人はまずいない
にも関わらずそうならないのはなぜだろう
結局「首都移転」論議と同じ
誰も本気で 自ら進んで 人の見てないとこででも やろうという意思がないからではないか
自分の反省を込めて