茨城県守谷市の常磐自動車道で乗用車を運転していた20代の男性が「あおり運転」を受けた後、殴られて負傷した事件。茨城県警は、会社役員の宮崎文夫被疑者を傷害容疑で逮捕、交際相手の喜本奈津子被疑者は宮崎被疑者を大阪市内の自宅マンションにかくまったとして犯人隠匿容疑で逮捕しました。そして、両被疑者を水戸地検に送検し、捜査が続いています。
表向き、この「あおり運転」事件は、ひと山越えたように見えます。しかしその裏で、この事件に全く無関係の女性経営者が、「ガラケー女(喜本被疑者)」などというデマ情報をツイッター等で拡散されています。
この女性のSNSに多数の誹謗中傷が書き込まれたり、女性の会社に数百件の電話が相次いで業務に支障をきたしたりする被害を受けました。女性は8月23日に記者会見し、デマ情報の投稿者や拡散した人物を特定し、法的処置を取る考えを明らかにしました。(動画はANNニュースYouTubeより)
全く無関係の人がデマ情報を拡散され、社会的に大きなダメージを受けてしまうケースは、今回に限りません。記憶に新しいところでは、2017年に東名高速道路で「あおり運転」から夫婦2人が死亡した事件でも起きました。この時は、あおり運転の犯人の男とは全く無関係の男性が男と親族などというデマ情報が拡散されました。男性の経営する会社には抗議や誹謗中傷の電話が殺到し、一時休業せざるをえない状態に追い込まれました。結果、11人が名誉棄損容疑で書類送検されましたが、不起訴処分となっています。
また、タレントのスマイリー菊池さんは、ある凶悪事件に関係しているかのようなデマ情報に10年以上も苦しめられてきました。このほか、「〇〇は犯人だ」といったデマ情報ではありませんが、2016年4月の熊本地震では、「ライオンが動物園から逃げ出た」とニセ画像付きでツイッターで拡散した男が、動物園の業務を妨害したなどとして逮捕されています。
これらのケースから、ネットが社会にこれほどまで浸透してきたということは、その分、ある日突然、自分が「事件関係者」などと攻撃される可能性(リスクとも言い換えられる)も高くなるということを、しっかりと認識しなければなりません。
今回の女性は素早い対応を取ることができましたが、弁護士を雇って訴訟に持ち込むことは、多くの人にとっては費用などからなかなか難しい面があります。しかも、デマ情報の投稿者や拡散した人物を特定したとしても、先のケースでもあるように、不起訴となって処罰まで至らないこともあります。
また、民事訴訟で勝訴したとしても、それは請求できる権利を認められるだけで、確実に賠償されることとは別の話なのです。法的処置をとるということの労力(費用、時間)などと、そこから回復できるものとのバランスは、あまりにも不均衡なのが現実でしょう。
人の噂も七十五日――。そんなことわざもありますが、ネット社会ではそう悠長なことは言っていられません。デマ情報がいったん、ネット上に流れてしまうと、すべて削除することは不可能です。半永久的に誤った情報が浮遊してしまいます。投稿・拡散した犯人が捕まったから事件解決ということではないことも、デマ拡散問題の根深さがあると思います。
情報を拡散する際、真偽を確かめるなどと注意を喚起し、「ネットリテラシー」を向上させる活動も必要でしょう。ただ、素人が裏を取るのには限界があるし、何よりも速報性が求められるネット世界では、どうしても、こうしたプロセスがすっ飛ばされてしまいがちです。
また、匿名ということで、真偽不明な情報を拡散してしまうということに対してブレーキがかかりにくいことも、デマ拡散に拍車をかけているのかもしれません。
海外に目を向けると、デマ拡散に対して進んだ動きがみられます。台湾の立法院(国会)は今年5月、地震や台風などの自然災害時にネットなどでデマを流した人を罰するための法案を可決しました。時事通信によると、人を死に追い込むような悪質なものには、最大で無期懲役を科すことができるそうです。
時代は、刻々と変化しています。ネットは今後、存在感を増すでしょう。台湾のように無期懲役とまでは言いませんが、厳罰化を見据えた新たな立法処置を講ずる時が来ているのではないでしょうか。もはや、デモ情報を拡散された被害者だけの自助努力で対抗できる時代ではなくなっているのです。
むくぎ(椋木)太一 広島市議会議員(安佐南区、自由民主党)
1975年、広島市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務などを経て2006年、読売新聞西部本社に入社。運動部記者時代はソフトバンクホークスを担当し、社会部では福岡市政などを取材した。2018年8月に退職し、2019年4月の広島市議選(安佐南区)で初当選。公式サイト。ツイッター@mukugi_taichi1